低価格の中国製品流入に危機感、タクシン氏は既得権益層入り

低価格の中国製品流入に危機感、タクシン氏は既得権益層入り

公開日 2024.03.04

中国の経済危機に伴う余波があちこちで出始めている。2月22日付バンコク・ポスト(ビジネス2面)は、タイ政府が中国から「津波」のように流入している低品質の製品をいかに食い止めるかを苦慮している状況を「低価格の製品流入に対抗する」というタイトルの記事で解説している。同記事は、こうした中国の低価格商品の流入は、主に電子商取引(Eコマース)経由であり、日用品を製造するタイの中小企業に打撃を与えていると指摘。セター首相が最近、財務省関税局・国税局にその対策を強化するよう指示したという。

その上で、こうした安値商品の流入の原因は運賃・保険料込みの価格で1500バーツ未満の小包は輸入関税や付加価値税(VAT)が免除されるためだとし、毎年3000万個の小包みが中国からタイに流入していると報告。タイ工業連盟(FTI)によると、業種別では鉄鋼、アルミニウム、セラミック、石油化学品、医薬品などの産業分野が厳しい競争にさらされ、特に中小企業が最もネガティブな影響を受けているという。FTIのクリアンクライ会長によると、中国からの低価格・低品質の商品流入によりタイ地場企業は生産計画の変更や工場閉鎖を余儀なくされ、中国製品の輸入業者に転換したケースもあるという。

タイEコマース協会(THECA)のタナワット名誉会長は、米中関係の緊張の高まりから中国企業が北米依存を減らすためや、国内の競争激化に対応して東南アジアや他の市場にシフトしていると強調している。この記事には中国国内の景気悪化に関する言及は特にないが、中国の不動産バブル崩壊を背景とした国内消費の減少が、電気自動車(EV)を含め中国製品の安値輸出ラッシュの1つの原因になっている可能性もありそうだ。

また、2月28日付バンコク・ポスト(ビジネス5面)は米ブルームバーグ通信の「習氏の銀行家締め付けが頭脳流出を加速させている」という記事を転載している。同記事は深圳で働いているある女性投資銀行家が昨年、ボーナスを60%カットされ、給与も凍結されたため、今年、より給料の高い香港に移ったという事例を紹介し、習近平国家主席の「共同富裕」政策が給与減少につながっていると指摘している。習氏は40年間続いた中国の市場経済化やイノベーション推進路線から、金融業界も共産党による中央集権化など「中国独自の近代的金融システム構築」にシフトしつつあると強調。「新しい中国経済が近く形成され、金融部門も国営銀行と国営保険会社の2種類だけになるだろう。それは、1978年以前の計画経済モデルに完全に戻るわけではないが、近いものになるだろう」との香港大学の専門家の見方を紹介している。


米アップルが約10年前から取り組んできた自動運転可能な電気自動車(EV)の開発計画を断念したことが明らかになった。特に今年に入ってから、米国、欧州、そして中国でもEV販売の頭打ちとハイブリッド車(HEV)への急速なシフトが伝えられていたタイミングもあり、世界中に大きな波紋を広げた。こうした中で、今年に入ってもEV販売の増加が止まらないタイは、果たして敢えて世界の逆張りをしているのか、それともEVの現時点での限界とリスクを軽視しているのか。ただタイの場合、EVの大きなデメリットである極寒環境ではないという欧米との違いはある。

そうした中、2月25日付バンコク・ポスト(1面)はセター首相が来月15日にドイツを公式訪問する際に、ドイツ企業にタイでのEV投資を促す見込みだと伝えた。首相訪独に備えて2月21~25日にドイツを訪問したパーンプリー副首相兼外相が明らかにしたもので、タイ政府はドイツの投資家に対し、ランドブリッジや半導体産業、データセンター、そしてEV製造などの分野への投資を呼び掛ける計画という。


2月27日付バンコク・ポスト(2面)によると、タイ国鉄のニルット総裁は中国が協力し、最終的にはラオスのビエンチャンからバンコクにつなぐタイ中国高速鉄道計画が2年以上遅れるとの見通しを明らかにした。第1フェーズであるバンコク―ナコンラチャシマ間のうち、ナコンラチャシマの一部区間の住民がコミュニティーへの影響を減らすために高架化を求めてきたことから、約47億バーツを追加投資し、28カ月かけて7.8キロの区間を新たに高架化する計画に変更するという。


英エコノミスト誌2月24日号はアジア面で久しぶりにタイを取り上げている。タイトルは「タクシン・チナワットはタイの既得権益層に入った」だ。同記事はまず、タクシン元首相のタイ政界における経歴と昨年の帰国から2月18日に恩赦により軍の病院から退院した経緯などを簡単に紹介。「タイの強力な既得権益階層との何十年にわたる戦いの後、タクシン氏はこの階層に加わったようだ」と指摘。「保守派のエリートはより大きな敵だと見ている前進党と戦うために彼を必要としている」との見方を示している。

そして、現政権を首班するタイ貢献党は親軍政党と組んで以来、人気は急落しており、現政権はタクシン氏の経歴が貢献党のイメージ挽回を支援してくれると期待していると分析。特に首相時代の経済ブームや「30バーツ医療制度」などをタイ国民は覚えているからだという。一方で、国民はそう簡単にはなだめられないだろうともする。タイ国立開発行政大学院(NIDA)の世論調査によると、回答者の40%が政治紛争により、タイ経済は悪化しつつあると考えているという。同記事は「タクシン氏は、この紛争の不人気側に身を置いたことで、かつてのように国民を奮い立たせることはできないことに気づくかもしれない」と締めくくっている。

TJRI編集部

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