航空機動力源の未来、注目集める「SAF」

航空機動力源の未来、注目集める「SAF」

公開日 2023.05.30

TJRIニュースレターでは創刊以来、電気自動車(EV)と自動車の動力源が最大テーマの1つとなってきたが、もう1つの主要輸送手段である航空機についてはこれまであまり取り上げる機会がなかった。しかし、日本やタイでも最近、急に二酸化炭素(CO2)削減効果が高い「SAF(持続可能な航空燃料)」が一般にも話題になり始めている。経済産業省は今月26日、2030年から航空燃料の10%をSAFで供給するよう石油元売り各社に義務付ける方針を示した。

英エコノミスト誌20日号のビジネス面で、航空燃料の脱炭素化の現状と課題を整理している。タイトルは「航空業界はネットゼロを実現したい。しかし、まだだ」で、副題は「航空機製造の技術と経済性では、脱炭素化は信じられないぐらい困難だ」。同記事は冒頭で「Flying is a dirty business」と表現、飛行機は化石燃料の燃焼により、世界の温室効果ガス排出量の2%超を占めるが、次の2つの要因が今後数年で排出量をさらに押し上げるだろうとする。

その1つは、人々の旅行需要が強いことだという。国際航空運送協会(IATA)は来年の航空旅客需要は新型コロナウイルス流行前の2019年と同水準の40億人、そして2050年には100億人に達すると予測。このため米ボーイングは、世界の航空機数は2019年の2万6000機から2040年には4万7000機と倍増すると予想している。2つ目の要因は、電力、自動車、鉄鋼・セメントなどの他の二酸化炭素(CO2)排出の多い産業と比べ航空運送業は脱炭素化が困難なことだという。業界団体「ミッション・ポッシブル」によると、2050年までにネットゼロを達成しようとした場合には、2030年までに革新的技術を採用した航空機を開発するとともに、SAFを一気に普及させることで、燃料効率を従来の2倍の水準まで高める必要があるという。

同記事は飛躍的な燃費向上に向けた航空機の改造のさまざまな取り組みの現状を紹介。しかし、ミッション・ポッシブルは燃費向上に向けた「新型の飛行機や燃料システムの実現見通しは遠い」とした上で、スタートアップ企業による電動航空機や、欧州エアバスによる液体水素を燃料とする航空機の開発の現状と課題を説明している。特に液体水素は現在のジェット燃料(ケロシン)と比較した時に保管の難しさがあり、短距離飛行にしか向かないだろうと結論づけている。

このため最も期待できるのは、完全な脱炭素ではないもものの、ケロシンよりはCO2排出を80%削減できるSAFだとする。SAFは現在、廃食油などを原料とするが、米ボーイングは2030年までには自社の航空機の100%をSAF対応可能にすると公約。価格は現在、ケロシンの倍だが、増産によりコストを下げることは可能だという。IATAによると2022年のSAFの生産量は前年比3倍増の3億リットルに達した。しかし、2050年のネットゼロ目標を達成するためには4500億リットルのSAFが必要で、原料確保が課題となり、廃食油や廃棄物、木質資源だけでは不可能だと指摘。可食作物由来のバイオ燃料も必要になるが、食料との競合が問題視されており、SAFは現時点では可食作物の使用を禁じているという。一方、大気中などのCO2を利用する合成燃料についてはまだ試験プロジェクトがあるのみだという。このため、「飛行はすぐに気候変動に抜本的に優しいものになりそうにはない」と結論付けている。

27日付のバンコク・ポスト(2面)は、タイ国際航空と石油大手バンチャクが26日にSAFの技術的、専門的な知識の共有に関して覚書(MOU)を結んだと発表した。バンチャクの精製事業グループ担当上級執行副社長は「グリーンノベーションの発展とともに持続可能な世界を構築する」という現在のビジョンを追求していく」と強調した。バンチャクは2022年に運輸部門の温室効果ガスを削減するために、製油所をバイオ燃料を生産する製油所に転換し。廃食油から製造するタイでは最初で、唯一の事業を立ち上げたという。


英エコノミスト誌20日号は、Leadersの1本と特別リポートで「デジタル金融」の特集を組んでいる。ここでは「グローバル・ファイナンスの未来をめぐる闘い」と題するLeadersのごくさわりだけ紹介しておく。同記事は「革命は、『Mペサ(M-Pesa)』によりケニア人がテキストメッセージで支払いができるようになった2007年に始まった」と日本人が誰も知らないだろうアフリカの携帯電話を利用した決済・送金サービスを紹介することから話を始める。そして2011年に中国アント・グループの決済アプリ「アリペイ」がQRコードによる支払いサービスを開始したことや、インドやブラジルなどでも低所得者層の間での電子支払いシステムが急速に広がった結果、「世界的にも紙幣や硬貨の使用が3分の1に減り、Eコマースがブームとなり、デジタル支払いがない生活は想像できなくなった」と表現している。

TJRI編集部

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