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公開日 2022.06.14
ロシアのウクライナ侵攻が世界経済のさまざまな分野に影響を与える中で、食品価格の高騰、食糧危機論がメディアで一段とクローズアップされている。実際にインドが小麦、マレーシアが鶏肉について輸出規制するなどの動きもあり、輸入国は危機感を強めている。
タイのオンラインニュースメディア、ザ・スタンダードは6日付で、食糧危機に関する分析記事を掲載。同記事はまず、「多くの国での食品輸出の禁止はタイにとっては市場の拡大につながるものの、タイの消費者は食品価格の上昇に直面している」と指摘した上で、専門家らは特に肥料の動向を注視すべきで、「もし肥料不足がおきればタイの農産物価格は50%上昇し、タイの食品輸出は制約されるだろう」と警告している。ただ、タイ政府が他国との交渉で事前に肥料を準備できれば、「タイ国民の3人に1人は今回の食糧危機から恩恵を受ける可能性がある」と結論づけている。
同記事では、カシコン・リサーチ・センターのケワリン副社長は、「タイは食品の大量生産国なので食品不足に陥ることはないだろう。多くの国での食品禁輸措置は、タイ産のコメや砂糖、鶏肉などの一部製品の輸出チャンスの拡大につながる可能性がある」とする一方で、生産のサプライチェーンを考慮すれば、タイは肥料と動物飼料などの原料を輸入に頼っているために、「この食糧危機からタイが受ける恩恵では、これらの要因を考慮に入れる必要がある」と強調している。
また、タイ商工会議所大学国際貿易研究所のアット所長も「肥料は100%輸入しなければならない。動物飼料原料のうち、大豆はほぼ100%輸入しており、トウモロコシは需要量の800万トンのうち、500万トンしか国内生産できず、小麦は全量輸入だ」などと説明。今回、留意しなければならないのは、「今年下半期の肥料供給量が適切かどうかで、現在、肥料在庫が減少し始めており、もし肥料在庫が払底した場合には、高価格で輸入しなければならなくなるだろう」とより具体的な見通しを示している。
この記事に限らず、最近はロシア・ウクライナ戦争に伴う食糧不足を背景にタイ産農産物・食品輸出がらみのニュースが多い。世界的に供給不足に陥っている小麦の代替需要が高まっているコメについては、コメ輸出業協会のデータとして、今年1~4月のコメ輸出量が前年同期比52.7%増になったと各紙報道している。また、昆虫食の輸出拡大への期待が高まっている(2日付バンコク・ポスト)ことや、中国人に人気のドリアンの輸出額が過去5年間増加し続け、今年は2000憶バーツに達し、主要作物であるコメや天然ゴム、タピオカを上回るとの予想も伝えられている(9日付バンコク・ポスト)。
このほか個人的に気になった記事は、5月のバンコク都知事選挙で当選したチャチャート知事がインテリジェント交通管理システムの導入などにより交通渋滞を1年以内に緩和すると公約したことだ(9日付バンコク・ポスト)。特に初めてバンコクに赴任した際に多くの人が最初に驚く「主要交差点では警察官が信号機を手動で操作している」仕組みにも対策を講じるという。渋滞緩和に向け新都知事がさまざまな既得権益に本当にメスを入れられるのか要注目だ。
一方、同じ交通絡みでは10日付バンコク・ポストが高架鉄道BTSは学校の再開、外国人旅行者数の増加、延伸区間の運用開始などで、利用者数が新型コロナウイルス前を上回ると予想していると伝えている。一見いいニュースのようだが、コロナ収束は、渋滞復活に加え、BTS満員化などバンコク市民にとっていいことばかりではない。
TJRI編集部
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