トヨタの立ち位置とスウェーデンからの視点 ~EVは環境保護か、CASE対応か~

トヨタの立ち位置とスウェーデンからの視点 ~EVは環境保護か、CASE対応か~

公開日 2024.02.12

2024年初めの世界の経済ニュースの中で改めてトヨタ自動車に注目が集まっている。それはポジティブな意味、ネガティブな意味の両方でだ。昨年12月に発覚したグループのダイハツ工業による新車の試験認証不正に続いて、年明けには祖業である豊田自動織機でも同様の事例が明らかになり、トヨタ自動車の豊田章男会長など幹部が相次いで陳謝する場面が続いた。

一方で、トヨタは2月6日に2024年3月期決算予想で、営業利益を上方修正するとともに、純利益は4兆5000億円と初めて4兆円を突破するとの予想を明らかにした。売上高、純利益とも過去最高だという。そして6日の株式市場では、トヨタ自動車の時価総額が日本企業では初めて50兆円を突破。日本のバブル経済がピークに向かいつつあった1987年に、NTTが付けた記録を30年以上ぶりに上回った。このニュースは、電気自動車(EV)をめぐる世界的なトヨタ叩きの潮目が変わってきたことを示唆しているのかもしれない。

タイ自動車市場の激変

トヨタ・モーター・タイランドは2月1日、2023年度のタイの全新車販売台数が前年比8.7%減の77万5780台だったと発表した。車種別では乗用車が同10.4%増の29万2505台と好調だった一方、商用車は同17.3%減の48万3275台と不振で、さらに1トンピックアップトラックは32万5024台で、前年比28.5%減と落ち込んだ。国内景気回復の遅れや、高水準の家計債務による購買力の低下、金融機関が自動車ローン提供に慎重になっていることなどが背景という。特に新型コロナウイルス流行中には底堅かったピックアップトラックへの悪影響が大きかった。

全市場でのメーカー別シェアではトヨタが34.5%、いすゞが19.6%、ホンダが12.2%とトップ3の座を維持。4位以下は、米フォード(4.7%)、三菱(4.2%)、BYD(3.9%)、MG(3.5%)、マツダ(2.1%)、日産(2.1%)、NETA(1.8%)、GWM(1.7%)などの順だった。前年比の台数増減では日系メーカーが軒並み大幅減となる中で、ホンダのみ同13.9%増と好調。一方、中国勢はBYDが9653.8%(約100倍)の激増したほか、NETAも1257.8%の急増だったが、先発組のMGは0.1%増とほぼ横ばい、GWMも18.4%増にとどまった。これらの結果、日系のシェアは、前年の85.4%から77.8%に急低下。一方、中国勢は4社合計で10.9%と、前年の4.7%から急拡大した。

こうしたシェアの急変は当然、中国の電気自動車(EV)メーカーの攻勢を反映したものだ。タイ運輸省陸運局が集計している車両新規登録台数では、2023年度の7人乗り以下の乗用車の登録台数65万3528台のうち、内燃機関(ICE)車は48万0600台(シェア73%)だった一方、ハイブリッド車(HEV)は8万4366台(同13%)、バッテリーEV(BEV)は7万5707台(同12%)、プラグインハイブリッド車(PHEV)は1万1692台(同2%)だった。2023年のこれらのシェアの急変ぶりは7人乗り以下の乗用車の月別シェアの推移(図1)を見ると良く分かる。

2023年の月間EVシェアの推移
図1(タイ陸運局データを元にTJRI編集部作成)

豊田会長「EVシェアは3割」発言が波紋

「現在は正解はない。例えばカーボンニュートラルなど正解がない時にどうするか。・・・CASEなどの大きな変化点がある中、トヨタがやっていることが必ずしも正解ではない。ただ、何かしらの変化をしない限りは必ず衰退してしまう」

トヨタ自動車の豊田章男会長は1月13日、トヨタ生産方式に関して企業幹部200人に対して行った講演で、トヨタの現在の立ち位置をこう端的に表現した。CASEとは、Connected、Autonomous、Shared、Electricという大変革期を迎えた自動車産業のキーワードだ。同講演での質疑応答で、豊田章男会長は改めて「マルチパスウエイ」の意義を説明した上で、「いくらBEV(電気自動車)が進んだとしても市場シェアの3割だと思う。あとの7割はHEV(ハイブリッド車)なり、水素エンジンになり。そしてエンジン車は必ず残ると思う」と語ったことが各種メディアで波紋を広げている。

日野自動車に始まり、ダイハツ工業、そして豊田自動織機と続いた認証試験不正の発覚を受け、豊田会長は1月30日にグループ向け説明会、メディア会見を行った。グループ向け説明会では、トヨタグループが進むべきビジョン「次の道を発見しよう」を発表したが、「創業者豊田佐吉の誕生日である2月14日の発表を予定していた」が、グループ会社の不正が続いていることなどから予定を早めたと報告。記者会見ではトヨタグループの歴史、系譜図などを説明した。この会見で興味深かったのは、米議会公聴会での豊田会長の証言につながった2009年の米国での大量リコール問題に言及し、顧客の信頼を失ったことで、「トヨタは一度つぶれた会社だ」と表現し、「私は、トヨタの責任者として、現在、過去、未来、すべての責任を背負う。そう覚悟を決めた」と語った。

系譜図を説明する豊田章男会長
系譜図を説明する豊田章男会長

スウェーデンの専門家の見立て

「環境のためというのは嘘ではないが、環境だけのためにやっているわけではない。EVイコール環境ではない。・・・自動車業界の100年に1度の大転換であるCASEでは、電気モーターが1回転した時にタイヤが何回転しているとかの制御もガソリンエンジンよりEVの方がやりやすい。CASEと電動化は相性がいいことが世界的なEVブームの背景だ」と説明するのは、「スウェーデン移住チャンネル」というユーチューブ番組で情報発信している吉澤智哉氏だ。同氏は日本の自動車メーカーなどを経て、2016年にスウェーデンに移住。現在、スウェーデンの自動車部品メーカーのプロジェクトマネジャーを務めているという。

吉澤氏は、極寒の地でのEV使用のメリット、デメリットをエンジニアとしての視点から、主観も交えながらも冷静にリポート。そして最新番組「EV展示会」では、首都ストックホルムで開催されたEV展示会場を視察した様子を伝えた後、「EVは本当に環境のためなのか」「中国勢の脅威」「日本勢はゲームチェンジできる可能性はあるのか」という三つのテーマを論じている。特にCASEについては、「CとAとSの技術の発展にはEが寄与しやすい。ガソリンより制御しやすい」とした上で、メーカーとしては、将来、より利益を出せるのは自動運転やコネクテッド、遠隔操作などであり、これらを実現するためには電動化が必要だという判断だと指摘。EVシフトは環境のためと言えば宣伝しやすいが、「CASEの方が意味合いとして大きい」と強調した。

日系はEV「後出しじゃんけん」も

そして「中国勢の脅威」については、EV展示会でも知らない中国系ブランドが一気に増え、街中でも比亜迪(BYD)だけでなく、長城汽車(GWM)、上海汽車系のMGなど「中華系EVを見かけない日はない」とし、この半年、ものすごい勢いでスウェーデンだけでなく欧州大陸全域に中国勢が進出していると報告しており、タイとほぼ同様の状況になっているようだ。筆者も先週、クイーンシリキット国際会議場(QSNCC)開催された「EV EXPO 2024」をちょっと覗いたが、スウェーデンの展示会よりも中華系が優勢だった印象だ。

バンコクで開催されたEV EXPO 2024の展示
バンコクで開催されたEV EXPO 2024の展示

ただ吉澤氏は、中国系含め各国EVメーカーは車体を共有していることが多く、個性が出にくいとの見方も示す。そして、日本勢のゲームチェンジの可能性について、「(ストックホルムの)展示会場には日産自動車しかいなく、日本勢の勢いは感じられない」とするものの、「決して遅すぎないのでは。後出しじゃんけんをすればいいだけだ」とし、日系は「ベストなタイミングを待っているのではないか」との見方を示す。そしてEVはもともと「味付けが単純で差別化しにくい」とし、展示会場で見てもどの車も良く似ていると指摘。トヨタ自動車など日本のメーカーが一定のタイミングで、「あなたたちの欲しかったのはこれでしょうと刺さるものを出せば皆、そっちに行くのでは」と日本勢にエールを送る一方、そうでなければ「日本の基幹産業がつぶれてしまう」と警告もする。吉澤氏はEVを実際に自ら使用する中で現時点でのデメリットも指摘しているが、「このままだと5~10年たったらEVとガソリンとディーゼルの比率が逆転する。EVがメジャーになってくる時代は本当にある」との見通しを示している。  

果たして、豊田章男氏が言う世界のBEV比率は3割が上限との見通しが正しいのか、BEVが5割を上回る日が来るのかまだ分からない。そもそも一言で「EV」といっても、中国の新エネルギー車(NEV)、タイのゼロエミッション車(ZEV)などさまざまな表現があり、BEVに限っているのか、PHEVなども含めた目標値なのか分からないことも多い。各国やメディアで異なる「EV」の定義と表現を明確にすべきだろう。その上で、地域ごとにそれぞれの駆動手段の普及状況を見極める必要がある。

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TJRI Editor-in-Chief

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

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