バンプー、日本の電力市場に積極参入 〜タイ北部の石炭会社が国際エネルギー企業へ〜

バンプー、日本の電力市場に積極参入 〜タイ北部の石炭会社が国際エネルギー企業へ〜

公開日 2023.01.24

タイ石炭大手バンプーの再生可能エネルギー子会社バンプー・ネクストは日本で太陽光発電事業を積極的に展開している。同社のワス・ヌラック上級副社長は、昨年11月18日に東京都中小企業振興公社(東京SME)が開催した「Tokyo-Thailand Business Partnership Seminar」で講演し、同社の事業概要を紹介するとともに、日本の電力市場に関する認識、そして日本での事業経験を報告した。

日本は外国へのエネルギー依存度高い

ワス副社長はまず、タイと日本の電力市場の違いについて「日本の電力市場は規制緩和され、卸売市場、小売市場ができたが、タイにはまだない」とする一方、日本は地域間の電力融通が困難で、タイと異なりネットワークが不完全だと指摘。特に電力の周波数は、東日本が50Hz、西日本は60Hzと異なり、二つの地域をまたぐ送電では、周波数を変換しなければならないという制約があると説明した。さらに、「日本は石油、石炭及び天然ガスなどの化石燃料を主に海外から輸入している」とした上で、東日本大震災で原子力発電所の稼働が停止された分、輸入を増やさなくなっているなどと述べた。

『日本の電力市場〜日本の総発電量〜』出所:Banpu NEXT Co., Ltd.

国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年の日本の電力の電源構成では、総発電量のうち化石燃料が88%を占めた。このため、ワス氏は日本の電力政策について、化石燃料の依存を減らす一方で、「再生可能エネルギーの比率を2030年までに22~24%に引き上げる方針だ」と説明した。また、日本は総需要量の96%以上を外国から輸入しており、外国へのエネルギー依存度が極めて高い。

さらに日本の再生可能エネルギーには太陽光、風力、小型・大型水力、地熱、バイオマスがあるが、再エネの年間平均成長率は固定価格買い取り(FIT)制度が導入される2012年までは9%だったが、その後は22%に急上昇したと報告。再エネのうち太陽光発電の市場が最も大きい理由については「中小企業でもできる設置の手軽さが原因だ」と指摘。今後は、「洋上風力発電もより成長が見込まれており、日本への投資にとっていいチャンスだ」との認識を示した。

『日本の電力市場〜再生可能エネルギーの成長〜』出所:Banpu NEXT Co., Ltd.

「Greener & Smarter」に基づく3つのエネルギー事業

続いてワス氏は、バンプー社の歴史について簡単に紹介。「1983年の創業で、ランプーン県バンプー村で石炭採掘を始め、1989年に上場した」とした上で、38年以上にわたって、国内だけでなく日本をはじめ、米国、中国、オーストラリアなどの世界10か国で海外ビジネスの経験を積み重ねてきたと強調。現在では、『Greener & Smarter』という方針に基づき、新技術の開発と環境に配慮した投資を重視しているとした。主要事業は、①石炭・天然ガスなどのエネルギー資源事業 ②発電などのエネルギー生産事業 ③太陽光発電や蓄電システムなどのエネルギー技術事業-の3つだと説明した。

『バンプーの3つのエネルギー事業』出所:Banpu NEXT Co., Ltd.

さらにワス氏は同社の3つの主要事業について次のように紹介した。

(1)エネルギー資源事業は、石炭の販売・流通事業のほか、米国で2つの天然ガス生産事業を行っており、その生産能力は全米の天然ガス生産者のランキングトップ20に入っている。

(2)発電事業は、2015年に日本で再生可能エネルギー事業のソーラーファーム(大規模太陽光発電所)事業を開始し、その後中国に展開した。ベトナムではウィンドファーム(集合型風力発電所)事業を行っている。さらに浮体式太陽光発電事業も始めている。

(3)エネルギー技術事業では、初めての電力取引(E-Trading)を日本で開始した。そこで得た経験をもとに、米国やオーストラリアなどの電力市場が自由化された国にも展開している。さらに、電池生産への投資や電気自動車(EV)のサービスプラットフォームなども手掛けている。ワス氏は「エネルギー事業には『知識』『生産能力予測』『流通方法』が非常に重要だ」と強調した。

今後も日本での成長機会を模索

そしてワス氏は改めて、バンプーがなぜ日本に進出したのかについて、①日本は政治的に安定しており、他国と比較すると、カントリーリスクが低い ②政府の政策が明確で、ビジネスの方向性をスムーズに決めることが可能 ③質の高い技能労働者-の3つの理由を挙げた。その上で「現在、バンプーは東京電力や関西電力、東北電力、四国電力などと取引があり、今後も日本でのビジネスにさらに適応できるよう、ローカルスタッフを採用してチームを作り、日本で新しいパートナーを見つけるのが目標だ」とアピールした。

ちなみに、バンプーは2014年末から日本でソーラーファームへの投資を始め、福島県会津から淡路市野島、北海道鵡川など今や日本全国に広がっている(2022年9月30日時点の太陽光発電の合計能力は243メガワット)。また、電力取引事業では、日本の民間企業や大学などが取引先になっている。これからもエネルギー市場における本格的な特定規模電気事業者(Power Producer and Supplier=PPS)を目指すとともに、日本でのさらなる成長の機会を求め続けている。

TJRI編集部

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