宇宙スタートアップ紹介#2『Synspective』衛星データで防災・減災ソリューション ~ JAXAウェビナーより~

宇宙スタートアップ紹介#2『Synspective』衛星データで防災・減災ソリューション ~ JAXAウェビナーより~

公開日 2022.07.19

宇宙航空研究開発機構(JAXA)とタイ地理情報宇宙技術開発機関(GISTDA)が6月28日に開催した「日タイ宇宙ビジネスウェビナー・マッチングイベント」に参加した宇宙スタートアップ紹介の第2回目は衛星データを利用し、主に自然災害に関わる衛星データ活用ソリューションを手掛けるSynspectiveだ。

株式会社Synspective ビジネス開発部 海外事業パートナーシップ担当責任者 小池 正治氏

レーダーによる地表観測衛星

当社では小型の地球観測衛星(Earth Observation satellite)を活用した2つのビジネスモデルがあり、1つは「撮像」された衛星データを販売するビジネス、もう一つが衛星データに付加価値を付けるソリューションビジネスです。

地球観測衛星は、搭載センサーによって光学衛星とマイクロ波センサー(Synthetic Aperture Radar=SAR)という2つのタイプに分けられます。グーグル・マップのようなアプリで使われるのは前者で、当社が取り扱う衛星はSARで、日本語は「合成開口レーダー」です。光学衛星は晴れた日中であればきれいに撮像できますが、雨や雲の厚い時はそうはいきません。一般的に一年を通じて約25%の時間しか鮮明な画像の撮像はできないと言われています。タイでも雨季には雲で地上が見えない、夜間で撮像ができない。特に、現場の情報が一番求められる洪水や土砂崩れなどの自然災害が発生時はなおさらです。SARはマイクロ波を地上に照射して、跳ね返ってくる波を反射レーダーがデータとして読み取るので、天候に左右されることなく1年中常時、撮像が可能です。

『光学画像(左)と合成開口レーダー(SAR)画像(右)の比較』出所:Synspective

従来の大型衛星と比べ、当社の衛星「StriX(英語でフクロウの意味)」は長さ5メートルのSARアンテナを採用しており、非常に軽量化された小型衛星です。JAXAからも多大な協力を頂き、これらの衛星を自社開発し、高性能な撮像を実現。1~3メートルの分解能で撮像できるモードがあります。小型衛星は大型衛星と比較して、安価に製造・運用することができます。当社ではその利点を生かして、2026年ごろまでには30基の自社衛星でコンステレーション(特定の方式に基づく多数個の人工衛星システム)を構築する予定です。今日現在、実証衛星2基を運用。今年9月にもう1基、来年は3基を打ち上げる予定で、2023年末までに合計6基体制、世界中どこでも1日に1回は撮像ができる環境が整います。

洪水など自然災害評価・予測ソリューション

それでは当社の5つのソリューションを紹介します。

(1)Land Displacement Monitoring(LDM)=地盤変動を計測して、地滑りホットスポットなどの将来的な予兆を予測します。主に建設業界、スマートシティ関連、不動産開発のデベロッパー、また保険業界、金融業界にもデータを提供。SAR衛星を、同様の周期で、同様の方向にレーダーを照査し、履歴データを分析することで、周期ごとにミリ単位で地盤の隆起や沈下を把握することができます。最近はさまざま場面でドローンが活用されていますが、数百から数千㎢の広域を一括でモニタリングしたい時、悪天候で現場にエンジニアが派遣できないような時などの状況では衛星の特長が非常にうまく生かされます。

(2)Disaster Damage Assessment(DDA)=災害発生の前と後の二枚の衛星データを活用し差分の解析を行います。去年のちょうど今ごろ、静岡県熱海市で起こった盛土土石流災害では、豪雨の影響で山の上にあった盛土が土砂崩れとなって家々と地域を丸ごと飲み込みました。土石流の起きる前後は非常に雲が多く、光学衛星で観測が難しいケースが多々あります。SAR衛星ではそんな天候による心配はありません。マッピングされたエリアで影響を受けた道路や建物などを割り出すことが可能です。

(3)Flood Damage Assessment(FDA)=洪水はタイ、日本両国で人的にも経済的にも毎年多大なダメージを及ぼす災害です。FDAは浸水被害を浸水レベルに応じてマップ化し、地域・道路・建物別に被害を可視化します。

『浸水被害の解析データ例』出所:Synspective

これら3つの災害対策ソリューション全てに共通しているのは初動対応、復旧・復興時に、被害抑止に、被害軽減につながるデータを供給することです。これらは総合的な社会活動へのコストの削減にもつながり、次に差し迫る災害に備えることを意味します。

森林管理、そして洋上風力発電の風力推定

次に、持続可能な開発目標(SDGs)やESG(環境・社会・企業統治)などいわゆる地球温暖化対策としての側面からのソリューションを2つ紹介します。

(4)Forest Inventory Management(FIM)=タイでは過去20年間で森林面積が半減、またはそれ以下になったと言われています。そんな状況下で期待されるのが、森林をスマートに、リモートでモニタリングすることです。SynspectiveのFIMソリューションであれば、仮に地球の裏側からでも、現状のバイオマス容量や伐採状況などのライフサイクルを、遠隔からモニタリングができます。

『森林のモニタリングデータ』出所:Synspective

(5)Offshore Wind Assessment(OWA)=洋上風力発電向けの風力推定技術です。SAR衛星は海面の波の形を捉えて、海面上の風力を推定します。陸の固定型風力発電と比べ、洋上はより風力が強い一方で、効率の良い発電が求められ、注目が高まっている分野です。

当社は創業4年目で社員数は150人以上、その内の約3割が海外からのエンジニアです。本社は東京で、海外では唯一シンガポールに拠点を構えております。われわれの衛星事業は内閣府の革新的研究開発推進プログラム『インパクト』から発足したプログラムです。創業から2年目、4年目にそれぞれ2度の100億円の資金調達に成功しています。引き続き、災害時、地球温暖化といった側面で社会貢献し、是非タイでの実証実験のお手伝いをできればと思っています。

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TJRI編集部

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