タイプラスワンとしてのカンボジアは今 ~三井住友銀行・SBCSセミナー~

タイプラスワンとしてのカンボジアは今 ~三井住友銀行・SBCSセミナー~

公開日 2023.04.11

三井住友銀行(SMBC)と同グループのタイ調査会社SBCSは3月9日、「タイプラスワンとしてのカンボジアは今」と題するカンボジアセミナーを開催した。同セミナーではまず、プノンペン経済特区の現状報告があった後、カンボジアに進出している日系企業幹部らが参加するカンボジア現法の経営の実態に関するパネルディスカッションも行われた。

政府は自動車・電子を重点分野に

第1部ではロイヤルグループ・プノンペン経済特区の上松裕士最高経営責任者(CEO)が「カンボジアの重点誘致産業とプノンペン経済特区の取り組み」と題する講演で、まず2021年10月に施行された新投資法について解説した。同氏は、カンボジアの製造業について、「今でも縫製業に7割近く依存している」とした上で、新投資法は「付加価値の高い産業を積極的に誘致してきくことを謳っている。また、原材料のほとんど輸入に頼っているため、カンボジア国内の中小企業、国内サプライチェーンを育てていきたいという意向だ。さらに日本の製造業は質の高い工場運営を行っているとの評価で、非縫製業の投資が日本からの投資を強く願っている」と述べた。そして新投資法の優遇分野は、電気・電子産業、スペアパーツ・組み立て及び取り付け産業、機械産業などで、自動車産業も対象だと説明した。

上松氏はさらに昨年12月に策定された「カンボジア自動車・電子分野発展工程表」を紹介した。これらの分野では既にデンソー、住友電装、矢崎総業、ミネベアミツミ、日本電産、スミトロニクスが進出済みだ。同氏は、「カンボジア政府はコロナ期間中でも、輸出が伸びたこれらの製造業に着目し、自動車・電子分野を重点分野と定めた」と指摘。そしてそのアクションプランでは、デンソー、豊田通商、ミネベアミツミ、プノンペン経済特区を含む産官学が「自動車・電子セクター発展諮問評議会」を設立し、企業への積極的な誘致活動、インフラ、電力料金の見直し、越境陸路輸送規制の調和などに取り組んでいるという。

また、カンボジアのカーボンニュートラルの取り組みでは、この5年で中国の投資で水力発電所が急増して5割を超えるようになり、その他のバイオマス、「ソーラーパネルファーム」が6%になり、発電所の6割が再生可能エネルギーになっていると報告した。

全方位プラグマティズム外交

経済特区の紹介
「経済特区の紹介」出所:ROYAL GROUP POIPET SEZ

プノンペン経済特区(株)は2006年4月に設立され2016年に上場。昨年初めにカンボジアの筆頭株主が、「ロイヤルグループ」という通信・メディア・金融・発電・ホテル・不動産・鉄道などの事業展開をするカンボジアの大手財閥に変わった。そしてポイペト経済特区(株)はプノンペン経済特区の100%子会社だ。最新ニュースでは、プノンペン経済特区に豊田通商がトヨタ自動車のピックアップトラック「ハイラックス」などの現地組み立て工場の建設に着手、6月末に竣工予定、生産開始は来年になるという。

日本人、日本企業にとってカンボジアは中国からの援助と投資が突出しているため、中国の属国化しているのではとの懸念が強い。上松氏は、「実際は自国の利益になることであればどの国とも仲良くしたいという『全方位プラグマティズム外交』だ。中国からの投資やODAが増えたからと言って、日本人、日本企業がぞんざいに扱われるようになったかというと、全くなく、むしろ、製造業、物流では日本企業への期待は高い。そして、「フンセン首相が最重要視しているのは社会的安定で、2度と内戦時代には戻したくない。いかに大国とのバランスを維持して、国を発展させるかカギだ」と訴える。

デンソー、ラジエター生産をタイから移管

セミナーの第2部は、「リアルなカンボジアビジネス~現法経営の実態と駐在員の生活」をテーマに、カンボジアに既に進出済みの日系企業幹部などが参加するパネルディスカッションが行われた。モデレーターはSBCSの伊藤博社長。

パネルディスカッションではまず、SMBCプノンペン駐在員事務所の田中泉所長がカンボジア経済の基本について説明。「カンボジア経済の一番の特徴はドル経済だ。国内決済の9割は全部ドルだ。自国通貨リエルはあるが、ほとんど流通していない。投資もドルで送って、ドルのまま預金で持って、ドルのまま資本金として持つ。支払いもドル。利益もドル。ビジネスがやりやすい。為替リスクが皆無で、ここ10年ぐらい1ドル=4000リエルで安定している。ドル高局面でも自国通貨が安くならず、結果的にはインフレにも強かった。ドル経済でどんどん回って発展してきた」と述べた。

デンソー・インターナショナル・アジア(タイランド)の上松正夫上級副社長は、2013年にデンソー(カンボジア)の立ち上げを担当し、ラジエター生産をタイからカンボジアに全量移管し、集中生産により地域の全量を担っていると報告。いわば「タイプラスワン」の先駆企業であり、現在、タイで自動車の電動化を進める際に、現在の製品の生産拠点をもっとカンボジアに持っていって良いのかなどを勉強しているところだという。

上松氏は物流インフラが重要だとした上で、「タイから部品を運んで、カンボジアで組み立てて、カンボジアから輸出したいが、まだ港が十分ではない。ただシアヌークビルまで高速道路ができたので、非常に期待できる。カンボジアで集中生産しているので、インドネシアやマレーシアなどに送りたい。カンボジアから直接輸出できるようにすることが大きなカギを握ると訴えた。

英語が通じるプノンペンは人材面で優位

一方、イオン・モール(カンボジア)の坪谷雅之社長によると、同社はプノンペンに2014年に1号店をオープン、現在、3つのショッピングモールを運営しているほか、新たに取り組む物流事業の拠点として「シアヌークビル物流センター」を昨年着工し、製造業進出のサポートをしていくという。同社長はショッピングモール事業について、「3モールで580テナントに入居してもらっている。商品・商材は、飲食以外はほぼ輸入に頼っている。これまで商材を半期分前倒しで買って、関税を払って、カンボジア国内に置いている。売れるかどうか分からないものを持っておく。売れなくなるとディスカウントして売る。その現金でまた新しい商品を輸入する」と説明。また、雇用問題については、「現地で人を雇用して教える際に、タイではなかなか英語が伝わらない。しかし、カンボジアはプノンペンだけだとは思うが、ほぼ英語が通じる。タイの日系企業がカンボジアで採用して、教育をして、独り立ちをするのはタイより少し早い」と評価している。

豊田通商マニファクチャリング
「豊田通商マニファクチャリング」出所:ROYAL GROUP POIPET SEZ

また、ポイペト経済特区で、2019年5月から操業開始したスミトロニクス・マニュファクチャリング(カンボジア)の佐藤智之社長は、「タイの賃金上昇とキャパシティーの負荷の高まりを受けて、タイプラスワンとしてカンボジアを選んだ」と説明した。同社は住友商事の100%子会社で、電子機器受託製造(EMS)サービスを展開しているという。

CASEではタイが中心、成熟製品をカンボジアに

パネルディスカッションでは、カンボジア発のビジネスチャンスについても、各社からさまざまな戦略の報告があった。デンソーの上松氏は自動車部品メーカーとして、東南アジア諸国連合(ASEAN)で自動車産業がどうなっていくのかを注視しているとし、「話題のCASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)、特にEの電動化がタイで始まろうとしており、CやAなどの新しい製品も間違いなくタイが中心になる。電動化部品をいきなりカンボジアで作るというのは絶対にありえなない。生産技術やノウハウが集中しているタイでやる」と指摘。その上で、「今までタイで作っていたものをどうするのか。そこで初めてタイプラスワンが出てくる。ある程度成熟した製品を、ある程度のレベルからカンボジアに持ってきて、タイを後方から支える。これにDXを組み合わせる。人工知能(AI)や、モノのインターネット(IoT)はタイも、カンボジアも進んでいる」との認識を示した。

一方、イオンモールの坪谷氏は「カンボジアの人口は1670万人で、平均年齢が24歳だ。カンボジアの労働者は小売りを含め非常に若い。スマホは1670万台以上あり、スマホ保有率は125%と人口より多い、。一人2台持って、1台をSNSで車や土地など商品を売買している人もいる」と述べ、カンボジアの潜在成長力に期待を寄せている。

カンボジア人はデジタル化の申し子

さらに、スミトロニクスの佐藤社長は、カンボジア進出を検討する企業に対し、「今までは移管という立ち上げ方だったが、新しい立ち上げ方を編み出さなければいけない。以前の中国と違うのはカンボジアの人たちは皆スマホ世代であり、デジタル化の申し子だ。機器、アプリケーションを巧みに使いこなす。例えば、労務管理は今までエクセルで給与計算、残業計算をしていたが、カンボジアにも給与計算アプリがある。残業申請、休暇申請など当たり前のように自分のスマホからできるようになる。カンボジア国内での製造もデジタルを活用して仕組みを簡単にし、効率良く組み立てていくのが大事だ」とアドバイスした。

そして、三井住友銀行が出資、業務提携をしているカンボジアの商業銀行最大手ACLEDA銀行に出向する松山譲治サポーターは、最近の日系企業の進出動向について、「相談件数はかなり増えている、実際にカンボジアに出張に来て、進出前の相談に来る方もいる。2021年ごろから渡航規制が緩和されてこうした流れが増えてきた。2021年に、出張ベースで相談を受けた方はBtoC関係が多かった。新車販売も伸びてており、早かったのはフォードだ。その後、2022年に豊田通商マニュファクチャリングが進出。2023年に入ってからは、それ以外の業種、観光、不動産、インフラプロジェクト、再エネ関係も増えている」と報告した。

TJRI編集部

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