「セカンダリー・シティー」とは何か ~コンケンモデルに注目~

「セカンダリー・シティー」とは何か ~コンケンモデルに注目~

公開日 2023.12.13

バンコクに初めて駐在し、タイの英文ニュース記事をチェックようになってからしばらくして「secondary cities(セカンダリー・シティーズ)」という表現をよく目にするようになった。それは主に観光がらみの記事の中で、バンコク、チェンマイ、アユタヤ、プーケット、パタヤなどのタイの主要観光地以外でも観光振興を強化するとの内容が多く、セカンダリー・シティーの日本語の定訳がないこともあり、「知名度の低い都市」などと翻訳していた。そして今週配信したWEEKLY NEWS PICKUPコンケン・リポートの取材の中でも、セカンダリ―・シティーズという表現が出てきた。

それは世界銀行が今年9月に公表した「Thailand Urban Infrastructure Finance Assessment」と題する長文のリポートにも出てくる。そしてこのリポート作成にコンケン大学が深くコミットしていることを知り、驚いた。同リポートは① Thailand’s Urban Infrastructure Investment Matter ② Our findings ③ Next Steps の3部構成で、地方都市開発の課題を詳細に分析している。今回はこのリポートのExecutive Summary(要旨)を紹介することで、タイの地方都市におけるスマートシティー化を含めた開発の課題などを探ってみたい。

バンコク1極集中とコンケンモデル

「タイの都市化はずっと不均衡だった。バンコクが都市化、経済成長、都市投資の焦点であり続けている。バンコクと周辺地域の都市化はタイの経済成長に貢献してきた。その成長が鈍化する中で、タイの経済成長軌道を継続し、その恩恵を拡大する際にセカンダリー・シティーズが果たせる役割が何かを考える時が来た。その役割を果たすためには、経済成長と持続可能性につながるインフラ投資に必要な資本へのアクセスが不可欠だ」

世銀リポートの要旨はこう書き出している。そして、「都市投資でセカンダリー・シティーズがより大きなシェア占めるようになることがタイ全体に貢献するだろう」と強調。効力のある政策環境があればこれらの都市は国家保証がなくても民間部門の投資を呼び込むことができるだろうと訴える。その上で、地方自治体が信用度と資金調達能力を高めるためには、より柔軟性と自立性、そして責任性が必要になり、そうなれば中央政府の財政リスクをもたらすことなく投資家や貸し手の関心を誘うことになるだろうとの認識を示している。

続いて同リポートは「コンケンモデル」について次のように説明する。「コンケン大学(KKU)の要請に基づき、KKUと『Khon Kaen City Development Corporation』の分析とともにわれわれの調査は始まった」とした上でコンケンモデルの一環として、民間投資家グループは官民連携(PPP)方式で運営される予定の軽量鉄道(LRT)ネットワーク敷設の全資金コストを負担することに同意したと報告。建設工事はまだ始まっていないものの、この提案は前進しており、必要な承認も既に受けていると強調した。ただ一方で、これは特殊事例であり、他の都市にも応用できる可能性は少ないとし、われわれは地方公共団体の借り入れやPPP方式などを通じて民間投資を呼び込む伝統的方法も検討してきたという。

タイの都市インフラ開発の課題

同リポートはコンケン以外にも、チェンマイ、ラヨーン、ナコンサワン、プーケットの4都市も調査対象としている。「われわれのチームは5都市の26件のプロジェクト提案について、民間部門の関心と公的部門の準備体制を評価した」とし、そのうち、3件はPPP方式の候補になる可能性があり、9件はPPPの可能性はあるものの、より多くの開発提案が必要になるだろうと判断した。しかし、残り14件の提案はPPP方式にふさわしくないか、その可能性をアピールできる十分な開発計画にはなっていないと結論付けたという。

さらに調査対象となった5都市の自治体の準備体制については、「全5都市の信用度は十分だと判断されるが、市場がどう反応するかを確認するための格付け会社や潜在的な貸し手、または投資家との接触はまだない」段階だと指摘。さらにどの都市も長期的なPPPの経験がなく、地方行政組織(LAOs)はPPPを支援するための資金調達や能力を持つ潜在的ソースを知らないことも課題だと強調した。

そして「タイの都市インフラの課題はこれらの提案よりずっと大きい」とし、タイの政策当局者が直面している中心的な課題は、セカンダリー・シティーズが地域の経済成長を支え、気候変動に対応するために必要なインフラ整備の資金調達をいかに行うかだと指摘。タイも他の国と同様に、1990年代に地方分権の法制度を導入したが、インフラ計画や地域投資について真に責任を持つようになっておらず、「LAOsは依然、財政的に中央政府に依存し続けている」ことを問題視する。ただ、こうした課題があるにも関わらず、セカンダリー・シティーズのインフラ開発を促進することは有望だと助言している。

パラダイムシフトへの4つの行動とは

同リポート要旨は、セカンダリー・シティーズが資金調達してインフラを開発、トランスフォーメーション、パラダイムシフトの実現を支援するために、次の4つの行動を提案している。

(1)地方自治体レベルでのインフラの資金調達の枠組みを説明する「白書」の作成

(2)地方自治体インフラプロジェクトのデータベース、財政措置、PPP政策実行の管理・監視するための財務省などに「政策ユニット」を設置

(3)エンジニアリング、金融、法制度などの専門家が地方自治体スタッフを直接支援・指導できるような「インフラ投資サポートユニット」を設置

(4)インフラの借り入れやPPP開発に関わるLAOsを支援する専門サービスや助言・指導できる金融資産を提供するプロジェクト開発基金を創設

コンケンに日本企業の進出はあるか

同リポートは本文の中でコンケンについて、「タイの中で最も急拡大している都市の1つだ。多くの都市と同様に都市化の課題や持続可能な開発に取り組む中で、規制的な制度、財政の枠組みと格闘している。スマートシティー開発計画を通じて、新たな社会経済アプローチを支援するコンケンのインフラの強固な基盤を築くことを目指している。コンケンの民間部門は極めて活発で、地方自治体の投資障壁を打破するための戦略的な努力をしてきており、コンケンの持続的発展と経済成長をけん引してきた」と高く評価している。

今回のコンケン出張取材では、少なくとも中心部ではいわゆる「シャッター街」はほとんど見られず、地方都市としては経済活動が活発な印象を受けた。TJRIが2021年9月に開催したオンラインセミナーで、ミトポンのプラウイットCOOが「コンケン・イノベーション・センター」を整備中だと発言したことがずっと気になっていて、今回の出張取材の1つの動機となった。現地取材に加えて、今回紹介した世銀リポートで、なぜコンケンが注目されているのかが良く分かった。

今、コンケンに中国企業が日参しているという。一方、日本企業からのアプローチは極めて少ないようだ。日本企業は東部経済回廊(EEC)エリアで日本の村社会を構築して安心しているように見える。コンケンはミトポンというバイオ産業の大企業、そしてチョー・タウィーというユニークな企業の本拠地だ。日本人がほとんど知らない「セカンダリー・シティーズ」に日本企業、特にスタートアップ企業が進出を真剣に検討するようになることに期待したいと思った。

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TJRI Editor-in-Chief

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

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