タイの労務についてよくあるQ&A

タイの労務についてよくあるQ&A

公開日 2023.05.05

有期雇用契約と解雇補償金について

定年退職を迎える従業員がいます。定年後は有期雇用の契約社員に切り替える予定です。その際に解雇補償金の支払いは必要でしょうか。また、契約切り替えにあたっての注意点を教えてください。

定年退職後に引き続き雇用をする場合でも原則として定年退職の時点で法定の解雇補償金(退職金)の支払いが必要となります。また、有期雇用への切り替えにあたって、雇用契約が別となりますので、給与などの待遇面は定年前よりも引き下げることは可能となりますが、有期雇用契約時に契約内容をご本人にしっかりと確認し納得の上で契約書にサインをしていただくことが大切となります。

特定有期雇用契約(季節的、臨時的な業務等で2年以内の有期雇用、かつ解雇補償金の支給をしない旨明記している雇用契約)については解雇補償金の支払いが不要となります(労働者保護法17条)。ただし、一般的には季節的、臨時的な業務等と認められるケースは限られるため、有期雇用契約の場合であっても一般的には解雇補償金の支払いが必要となる場合が多くなっています。

試用期間と事前通知

今年従業員を増員し、試用期間を119日で設定しています。試用期間で本人のパフォーマンスを十分に確認出来なかったため、試用期間をパスさせてよいか判断しかねています。試用期間を延長するということは可能でしょうか。

タイの試用期間は法定の解雇補償金との兼ね合いで120日を超えないように119日で設定されることが一般的に多くなっていますが、試用期間そのものの上限期間は法律では規定されていません。そのため、会社が裁量をもって解雇する権利を留保するという意味での試用期間は、合理的な期間であれば会社と従業員の合意の下で任意で設定することが可能です。当初設定した試用期間を超えて6カ月間などに試用期間を延長し、その期間中にパフォーマンス等をご確認頂き、今後の雇用継続をご判断いただくことは可能です。

上記の通り両者での合意が必要となりますので、雇用契約書の付属書類として試用期間の延長について書面を残したほうが良いと考えられます。仮に試用期間を延長し120日以上のタイミングで解雇をする場合、試用期間中であっても法定の解雇補償金は勤続期間に応じて支払う必要があります。

また、試用期間中であっても解雇の際には一賃金支払い期間前の通知が必要となります(労働者保護法17条)。一賃金支払い期間前の通知とは1回の賃金支払期間を確保することで、例えば25日支払の会社では25日よりも前に通知する場合には翌月の25日で解雇とすることが可能です。

25日支払いの会社が5月25日付で解雇とする場合、4月25日以前の通知が必要となります。一方で4月26日の通知の場合、一賃金支払期間が確保されていないため、次の給与支払い日である6月25日以降での解雇とするか、代わりの補償金の支払いが必要です。

タイの休暇(傷病休暇)に関する対応

傷病休暇を頻繁に取得する従業員がいるため、1日でも休んだ場合に医師の診断書の提出を求めることは可能でしょうか。

傷病休暇は法定では3日間連続取得の場合のみ医師の診断書の提出要求が可能となります(労働者保護法32条)。診断書は第一級医師の診断書となっておりますが、従業員がクリニックなどの診断書を提出する場合もあり、クリニックの場合信頼性が低く受診者の依頼で記載内容を変えてしまうケースも散見されますので、第一級医師の診断書を再提出してもらうことをお勧め致します。

なお、傷病休暇の乱用などに対応するため、皆勤手当の支給や人事考課で対応するケースもみられます。人事考課については、加算処理として取り扱うことが望ましくなります。

不利益変更時の同意取り付け

スタッフのパフォーマンスを考慮して、降格を考えています。会社の裁量で降格を決定して本人に伝えて問題ないでしょうか。もし降格ができない場合に今後の賞与の支給額に反映させることは可能でしょうか。

労働関係法の第20条では、雇用条件に関する合意事項が適用された場合、雇用者や雇用条件に関する合意事項に抵触・相反する雇用契約を被雇用者と締結してはならないと記載されています。

したがって、原則として雇用条件の変更(降格や減給)の場合には事前に本人の同意を書面で取り付けておくことが必要となります。降格や減給の条件について書面で通知しご本人にも納得いただいたうえで同意のサインを頂くのがよいと考えられます。

また、タイでは労働法で賞与の金額や決定方法について法令での定めはなく、賞与の決定については会社に裁量があります。そのため、年によって金額が変動(減額含む)することや、従業員によって差が出ることは認められております。

そのため、ご本人のパフォーマンスを考慮して今後の賞与の支給額を調整することは可能と考えられます。その場合、就業規則等で「ただし、経営上重大な状況が発生した場合には、上記に関わらず支給額の一部または全部を支給しないことがある。」のように賞与の支給をしない・減額する可能性がある旨規定しておくことが望ましくなります。

また、雇用契約書や就業規則等で一定の金額の支給を保証している場合には、その記載内容に従う必要があり、従業員に不利な内容に変更する場合には不利益変更にあたり従業員の個別同意が必要となります。

なお、タイで従業員からの同意の取り付けが必要な事項としては以下があります。

・労働条件の変更(就業規則の改訂、異動・転籍、その他不利益変更)(労働関係法20条)
・変形労働時間制(労働者保護法22条、仏歴2541年勅令及び労働省規則第7号)
・時間外勤務(労働者保護法24条)
・役員、研究者、管理者、会社・財務社員にかかる妊娠中の時間外勤務(労働者保護法39/1条)
・銀行口座への送金、外貨建での給与支払い(労働者保護法54条、55条)
・給与からの控除(積立預金、損害賠償金、控除上限の例外)(労働者保護法76条)

従業員への警告書や解雇通知

従業員が会社のルールを守らない、トラブルを起こすことがあり、警告書や解雇通知の発行を検討しています。発行にあたっての注意点を教えてください。

会社のルールを守らない従業員への警告や懲戒解雇については、労働者保護法119条4項で就業規則または使用者の法に沿った正当な命令に違反し、使用者が文書で警告を行った場合に懲戒解雇が可能とされています。警告書は労働者が違反行為を行った日から1年間有効となります。警告書発行の後、1年以内に同じ事由で再度違反がある場合に解雇可能で重大な違反の場合には事前の警告なく即時解雇とすることが可能です。

警告書や解雇通知に本人サイン欄は必須ではありませんが、署名があった方が本人も内容を確認済みであることの証明となるため、一般的には署名欄を設けている方が多くなっております。

警告や解雇通知を受けた従業員本人がサインを拒む場合、従業員に警告内容や解雇理由を説明し立会人(HRマネジャーや上司など)がサインをする、または従業員の住所宛で内容証明付きで郵送するなどの方法により本人に通知した証明とすることも可能です。

大麻の一部合法化拡大にかかる労務対応

大麻の合法化範囲が拡大したことを受けて、社内の規定見直しを検討しています。大麻の使用禁止についてどの程度行うことが出来るのでしょうか。

2022年6月から、以前から合法であった大麻の医療目的での使用に加えて、THC含有率が0.2%以下の飲食等が合法化されました。合法化された範囲内での使用については会社での制限は限定的と考えられます。例えば、就業時間中・事業所内での使用を制限することや、使用により業務に支障をきたすようなケースについては、アルコールの取り扱いなどと同様に制限が可能と考えられます。一方で、就業時間外・事業所外での使用についてはアルコール等について制限が出来ないのと同様に会社として制限をかけることは認められないと考えられます。

在宅勤務にかかる労働者保護法の改定

在宅勤務にかかる労働者保護法の改正があると聞きました。どのような内容でしょうか。

23年3月19日付の官報掲載、4月18日発効の労働者保護法23/1条の追加に伴い、在宅勤務を導入する場合には以下の対応が必要とされています。

(1)事業所以外の場所で労働する場合の雇用条件について規定した書面または電子データ
(2)労使間の情報交換に関するルール 
(3)任意書式での業務報告書フォーマット

上記(1)の雇用条件については以下の通りです。

① 在宅勤務の適用開始及び終了
② 通常の労働日、労働時間、休憩時間及び時間外労働
③ 時間外労働、休日労働及び終了時間に関する判断基準
④ 当該労働者の職務内容、使用者による労働の管理及び指揮命令
⑤ 労働のための器具又は機器の調達及びその他労働に必要な費用

労働日、時間などについて会社での勤務の場合と同様の場合は就業規則に規定の内容と同じ、など旨記載が必要となります。

今後在宅勤務制度を導入する場合、従来導入していた制度を継続する場合には上記の点に留意頂ければと思います。

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BM Accounting Co., Ltd. / BM Legal Co., Ltd.
President、米国公認会計士(inactive) 、社会保険労務士

長澤 直毅 氏

社会保険労務士法人の代表社会保険労務士としてアジア各国での就業規則、雇用契約書作成、労務監査を対応。2012年よりインドネシア・ジャカルタ駐在、13年にはタイ・バンコクに駐在。16年にBM Accounting Co., Ltd.およびBM Legal Co., Ltd.を設立。バンコクに常駐してタイでの労務管理、解雇にかかる対応、労働組合、従業員・福祉委員会の対応にかかる相談、人事制度作成時の相談、会計・税務その他経営に関する相談、会計ソフト導入支援などを行う。

BM Accounting Co., Ltd. / BM Legal Co., Ltd.

タイで事業を行う日系企業・事業主の皆様が本業に専念できるよう、会計・税務・労務にかかる相談対応、業務代行を行っております。

E-mail: info@bm-ac.com
TEL: 02-076-7006
BB building F12 No.1213, 54 Soi Sukhumvit 21 (Asoke) Road, Kwaeng Klong Toey Nua, Khet Wattana, Bangkok 10110, Thailand

Website : http://www.businessmanagementasia.com/

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