ライフサイクル全体で脱炭素を ~トヨタと自動車産業の未来(下)~

ライフサイクル全体で脱炭素を ~トヨタと自動車産業の未来(下)~

公開日 2023.01.10

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トヨタ自動車は12月17~18日にブリラム県チャーン国際サーキット場で開催された25時間耐久レースに水素エンジン車で参戦し、豊田章男社長も自らハンドルを握った。18日には会場内メディア・パビリオンでトヨタ自動車のアジア本部長や、タイ国トヨタ自動車(TMT)、トヨタ・ダイハツ・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング(TDEM)幹部がトヨタのアジア戦略に関する記者会見を行い、改めてピックアップトラック「ハイラックスRevo」のバッテリーEV(BEV)版を来年にもタイで生産開始する計画を明らかにした。

ブリラムでの25時間耐久レースに参加したトヨタ自動車の水素自動車(写真:©2022 TOYOTA MOTOR CORPORATION.

アジアではマルチ・パスウェー戦略を

ハオ・ティエン・アジア本部長:アジアでは17カ国で事業を行っているが、経済のステージが非常に多様で、多様な社会性があるということを前提に事業をしなければならない。タイだけ見ても、都市部とそれ以外の地域でモビリティーのソリューションはかなり違ってくる。トヨタがずっと提唱している「Mobility for All」や「Don’t leave anybody behind(誰も置き去りにしない)」という精神がアジア地域で実践されることが望ましい。

アジア全体の拡大・成長は明確だ。トヨタはインド以外ではナンバー1であり、リーダー役を担っている。トヨタブランドのアジア地域での成長を維持して、勢いを加速させていくのがアジア地域CEOとしての役割だ。スズキ、ダイハツなどパートナーとの協業の重要性を感じている。

中国勢、韓国勢などはアジアの電気自動車(EV)市場の入り口としてのバッテリーEV(BEV)の戦略を立てている。自動車業界はカーボンニュートラルのホリスティック(全体的)に見て進んでいくことが重要だ。やはりアジアではマルチ・パスウェー戦略が重要だ。トヨタはお客様のニーズや嗜好に合わせてフルラインアップを提供していく。

小西良樹TDEM社長:ハイラックスRev Bevは既に開発を完了している。来年には量産のステージに入ってくる。近い将来、タイからこの車を送り出すことになる。

水素もBEVもカーボンニュートラルになるソリューションだ。1つ特徴を挙げると、商用車の分野ではBEVでたくさんの荷物を長い距離運ぼうとすると、バッテリーをたくさん積んでいかなければならない。車の許容荷重は限られているので、バッテリーを積めば積むほど、載せられる荷物が減ってしまう。もっとバッテリーの性能を良くしていくことが技術課題になっている。水素は気体なので重さに関してはバッテリーより有利で、たくさんの荷物を輸送でき、走行距離を伸ばせる。

脱炭素にはスピードとスケール必要

プラスTDEM執行副社長:(EVの価格の高さについて)お客様が車を選ぶ際には価格が重要になるのは承知している。技術を追求し、普及させるには政府からの補助金は欠かせない。ハイブリッド車(HEV)の方が、BEVや燃料電池車(FCEV)のソリューションよりも補助金は少なくて済む。HEVはマスでも手が届くソリューションだ。炭素は大気中に蓄積されていくので、カーボンニュートラリティーを実現するには、炭素を減らすためのスピードとスケールの二つのマトリックスが必要になってくる。スピードとスケールを実現するためには、人々が今、受け入れてくれるソリューションは何かを見極め、提供することが必要だ。HEVは一つの有力なソリューションだ。商用車では違う実情がある。商用車であれば、エタノール、バイオ燃料などの代替燃料を使っていくことの方がより現実的なソリューションだ。それぞれのソリューションには適切な移行期間が必要だ。5~10年で見なければいけないのは合成燃料、水素を使って作り出す燃料だ。車だけでなく、航空機、船舶にも新しい燃料技術は生かせる。これらを全体として推し進めることでゼロエミッションを達成する。

山下典昭TMT社長:今回、豊田社長自身が水素自動車で走った。先月初めてパタヤで国営タイ石油会社(PTT)の協力で水素ステーションが開設され、水素自動車が走行した。今回のタイの記者を含めほとんどの方が初めて水素自動車、水素が給油されるのを見た。リアルの力は強い。

「Bz4x」は1日で3500台以上の受注があり、予約受付をやめた。政府の補助金を入っても1台700万~800万円するという安い車ではないので、ありがたい。いろんなタイの方と話す中で、本当にトヨタが早くEVを出してほしいという声が強くあった。その結果が受注に出た。受注再開については、供給の状況を見ながらになる。

アジアにおけるカーボンニュートラル実現に向けた戦略

ここで改めてトヨタ自動車のカーボンニュートラル実現に向けた戦略を簡単に紹介する。同社は2015年に、2050年までの地球環境への長期的取り組み「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表。そこでは、新車でのCO2排出ゼロ、ライフサイクルでのCO2排出ゼロ、工場でのCO2排出ゼロなど6つの柱を掲げた。そしてこれまでの具体的な環境への取り組みでは1970年に初の自動車処理・リサイクル事業を開始した後、1996年に初のBEVとなる「RAV4 EV」を発表。さらに翌1997年に初のハイブリッド(HEV)車「プリウス」、そして2014年に燃料電池自動車(FCEV)「ミライ」を発売した。これらの結果、1997年以来のHEVを含む電動車の累計販売台数は2030万台に達し、CO2排出削減量は1億6200万トンになるとしている。

そして2050年までに実用的かつ持続可能なカーボンニュートラルを目指す企業として、①より多くのお客様にマルチパスの電動化・低炭素化の選択肢を提供 ②各国の国益と持続可能な目標を達成するための適切なライフサイクル活動-に取り組むと説明している。

『アジアの電動化推進における3つのレンズ』出所:Toyota Daihatsu Engineering & Manufacturing Co., Ltd.

さらに、「アジアの電動化推進における3つのレンズ」として、①ライフサイクルでの排出量削減 ②経済的影響の管理 ③お客様の受け入れやすさ-を挙げる。特に①ではエネルギーミックスに基づき、「燃料製造時のCO2排出」(Well-to-Tank)と「車両走行時のCO2排出(Tank-to-Wheel)」の合計量を試算した場合、タイやベトナムなど石炭への依存の高い国では、内燃機関車(ICE)こそ排出量は多くなるが、HEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、BEVでは、CO2の合計排出量に大きな差はないと指摘。排気口からのCO2排出ゼロ=CO2ゼロとは限らず、重要なのはエネルギーミックスとライフサイクルだとし、自動車の環境対策について一般の人でも理解しやすい視点を提供している。

TJRI編集部

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