[Feature] 寄稿:助川成也|タイでのAPEC首脳会議の成果と評価、そして課題(上)

[Feature] 寄稿:助川成也|タイでのAPEC首脳会議の成果と評価、そして課題(上)

2022.12.07 Feature

世界経済が抱える様々なリスクの議論と解決策の提示が期待されたアジア太平洋協力会議(APEC)が終了した。採択が困難とみられていた首脳宣言も発出されるなど、2023年5月にも行われる総選挙を前に、プラユット首相にとっても国内へアピールする絶好の機会となった。政府はAPECでの成果物として3つをあげるものの、それらは具体性や実効性に欠けており、ビジネスに寄与するかどうかは疑わしい。

 

首脳会議ウィークでASEAN3議長国が連携

厳しい状況打開に世界はASEANに注目

APEC2022(タイ)で議長を務めたプラユット首相(写真:©️2022 APEC2022THAILAND

2022年のアジア太平洋協力会議(APEC)※1議長国タイは、世界的に様々な困難を抱える中、11月18~19日の首脳会議で「首脳宣言」採択に何とか漕ぎつけ、その大役を無事に果たした。APEC2022のロゴマークに使われている竹籠(シャロム)を、バトンとして次回議長国の米国・ハリス副大統領に手渡したプラユット首相は、充実した表情を浮かべた。

2020年以降、世界経済は新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受け、リーマン・ショック以降の世界同時不況に見舞われた2009年以来、戦後2度目のマイナス成長(2020年:▲3.0%)を余儀なくされた。2022年は新型コロナ禍の影響が軽減されると期待されていたが、2月のロシアによるウクライナ侵攻と東部・南部4州の併合、8月の米ペロシ下院議長の訪台を受けて、米中二大大国間の覇権争いが台湾周辺での軍事的緊張に発展したこと、さらにインフレ、食糧・エネルギー不足、そして記録的なドル高の急進など、様々なリスクが経済を直撃した。

その厳しい状況の打開に向けた進展を期待し、11月中下旬、世界は東南アジア諸国連合(ASEAN)に注目した。カンボジアでのASEANおよび関連首脳会議(11月11~13日)をキックオフに、インドネシア・バリでの20か国地域首脳会議(G20サミット)(同15~16日)、そしてタイでのAPEC首脳会議(同18~19日)へとリレー形式で開かれた。

 

議長国の巧みな手腕で首脳宣言採択

これら議長国となるASEAN3カ国の共通認識は、国際的な協力が不可欠な緊急的な経済問題が山積みの中、これら多国間プロセスを決してロシア・ウクライナ戦争の人質にしてはならないというものであった。これら3カ国の外務省は、異例とも言える3カ国共同声明を発出した※2。ここで3カ国は、特定国の排除は地域の利益にも自分たちの力にもならないと主張、欧米日が主張する多国間プロセスにおけるロシア排除を明確に拒否した。

結局、ロシア・プーチン大統領は、3つの首脳会議に自ら出席することはなかったが、特にタイはプーチン大統領に対してAPECに出席するよう最後まで秋波を送り続けた。APEC首脳会議の約1カ月前(10月12日)の国連総会で、ロシアによるウクライナ東部・南部4州の一方的な併合に対する非難決議案について、193カ国中143カ国(ASEAN7カ国)が賛成、採択された。歴史的に関係が深いベトナム、ラオスに加えて、タイも棄権をすることでクレムリンにAPEC出席の秋波を送ったのである。

それでも日欧米と中ロとの対立が依然として残っていることから、これら首脳会議での首脳宣言採択は困難と見られてきた。しかし、議長国3カ国が連携し、両方の意見を取り入れるなど議長国の巧みな外交手腕によって首脳宣言の採択に漕ぎ着けたのである。ASEAN3カ国は、大国間が対立する中、特定国を排除することなく、一応は多国間プロセスを成功裏に終わらせることが出来た。プラユット首相の充実した表情はその表れであろう。

 

APEC2022年の成果

「Open. Connect. Balance」

APEC議長国タイは、自由で開かれた貿易及び投資を遅くとも2020年までに完了するとした「ボゴール目標」 ※3の後継として2020年に採択された「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」の実現に向け、前年2021年に策定された「アオテアロア※4行動計画」を着実に前に進めることが期待されている。

プトラジャヤ・ビジョンでは、2040年までに、開かれた、ダイナミックで、強靭かつ平和なアジア太平洋共同体の実現を目指している。その中で3つの経済的推進力、具体的には、①貿易・投資 ②イノベーション、デジタル化 ③力強く、均衡ある、安全で、持続可能かつ包摂的な成長-について、「アオテアロア行動計画」では、目的、進捗の評価、個別行動および共同行動が示され、各APECメンバーが個別に、また全体として取り組むべき課題と方向性が示されている。

タイは2022年のテーマ「Open. Connect. Balance」の下、長期的で強固かつ革新的で包括的な経済成長と持続可能な目標を推進するため、ⅰ)あらゆる機会に開かれた貿易・投資を促進し、ⅱ)あらゆる次元で地域を再び繋ぎ、ⅲ)均衡のとれた包摂的で持続可能な成長に向けて、APECを動かすことを優先課題として掲げた。

これらタイの3つの優先課題について、その核となる措置・政策は、「Open」ではアジア太平洋全域での自由貿易協定(FTA)実現に道筋を付けること、「Connect」は新型コロナウイルス危機によって困難化したアジア太平洋地域の国境を越えた人の移動やサプライチェーンを再び繋げること、「Balance」は、持続可能な経済実現に向け「バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデル」 ※5の導入・普及を狙いとしている。

 

議長国タイは3つの成果物をまとめる

タイは2022年を通じて、作業部会レベル、委員会レベル、4分野のAPEC高官会合、貿易、観光、林業、保健、食料安全保障、女性、中小企業、金融の8分野別の大臣会合、第33回APEC閣僚会合、第29回APEC首脳会議など、100以上の会合を主催してきた。タイ議長国年のフィナーレとなる11月中下旬のAPECウィークにおいて、閣僚会議では「共同閣僚声明」が採択され、首脳会議ではAPEC首脳宣言とBCG経済モデルに関するバンコク目標の2つの成果文書を採択した。

最終的にタイは議長国として主に3つの成果物をまとめあげた。まず、1)アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)アジェンダ作業計画(2023~26年)、2)安全な通行に関するタスクフォースの提言、3)BCG経済に関するバンコク目標-である。

1)は新型コロナウイルスの世界的な蔓延以降、FTAAPに関する新たな対話を推進することで、次世代の貿易問題によりよく備えるため、APECメンバーの能力構築を支援するものである。2)はAPECの安全な通行に関する作業をどのように進め、将来の混乱に対する地域の旅行インフラの回復力を引き続き構築するもの。3)は、議長国タイが最も注力したものであり、気候変動の緩和、持続可能な貿易・投資、環境保全、廃棄物管理の4つの主要分野に焦点を当てた持続可能性と包摂性の課題に関するAPEC初の包括的な目標である。

次回の(下)で3つの成果物について具体的にみていく。

 

※1. APECは、非公式で非形式的な対話を重視し、拘束力の弱い緩やかな合意の原則に従って運営されている政府間協力の枠組み。そのため掲げられる目標や行動などは、参加メンバーの自発的な行動によって推進されるという特徴がある。

※2. “Joint Press Release of the Ministries of the Kingdom of Cambodia, the Republic of Indonesia and the Kingdom of Thailand”, 4 May 2022, https://kemlu.go.id/portal/en/read/3571/siaran_pers/jointpress-release-of-the-foreign-ministries-of-the-kingdom-of-cambodia-the-republic-of-indonesia-andthe-kingdom-of-thailand

※3. 1994年11月の第6回APEC首脳会議において「APEC経済首脳の共通の宣言」(ボゴール宣言)を採択、ここでボゴール目標を掲げた。ここでは、先進工業経済は遅くとも2010年までに、また開発途上経済は遅くとも2020年までに、自由で開かれた貿易及び投資という目標の達成をコミットした。

※4. 「アオテアロア(Aotearoa)」はニュージーランド(島のマオリ語呼称。「白く長い雲がたなびく土地」)の意味。

※5. BCG経済モデルはもともと2018年11月に国家科学技術イノベーション政策委員会(STI)がプラユット首相に提出した報告書「BCG in Action」に端を発する。タイ政府は21年にBCG経済モデルを国家戦略モデルに据えたが、その背景には、世界がより均衡がとれ、持続可能なポスト新型コロナウイルス経済実現のため、ポスト・パンデミックの国家復興戦略の一環とした。

 

執筆:助川成也
泰日工業大学客員教授(国士舘大学教授)
1992年 中央大学経済学部国際経済学科 卒業、2019年 九州大学大学院経済学府経済学研究科経済システム専攻 博士修了。専門分野はASEAN経済、タイ経済、FTA/EPA、国際経済。
主な著書に『RCEPと東アジア』『サクッとわかるビジネス教養 東南アジア』など。

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