[Column] テスラ株暴落と自動車動力源の未来

[Column] テスラ株暴落と自動車動力源の未来

2023.01.10 Column

2022年のタイ経済ではエネルギー問題と電気自動車(EV)が最重要テーマになった。これは2023年も変わらず、特に内燃機関車(ICE)に代わりEVが本当に主役への道を歩んでいくのかなど、EVの真価が問われる年になりそうだ。それは今号のFeatureで改めて紹介したトヨタ自動車のタイ進出60周年イベントが一つの手がかりを与えてくれる。そして世界のEV神話をけん引してきたカリスマ経営者、イーロン・マスク氏が率いる米EV大手テスラ社の株価暴落が何を物語っているかも注意深く見守る必要がありそうだ。

 

テスラ株暴落は明らかにバブル崩壊

米ナスダック市場に上場する米テスラの株価は2021年11月に414ドルの史上最高値を付け、時価総額が2位以下の10社の合計を上回るという異例の高騰を続けた後、昨年末まで下落トレンドとなり、昨年12月27日には前日比11.4%安の109ドルの安値に沈んだ。最高値の4分の1に近い水準だ。特にイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)のツイッター買収とそれに伴う混乱や、上海工場の減産計画報道で下げが加速し、12月初めから同27日の安値までの下落率は44%とほぼ暴落と言ってよい。

筆者はテスラとイーロン・マスク氏の動向をこれまであまりフォローしてこなかったが、かつて1980代末の日本株のバブル相場を取材してきた記者として、今回のテスラ株の動きは興味深い。日本の株式市場の格言で「半値八掛け二割引」という言葉がある。典型的な相場高騰の後に来る、暴落の程度を表現したものだが、日本のバブル崩壊ではこの格言を下回る水準まで暴落した。21年末のテスラの直近の最高値は414ドルで、その「半値八掛け二割引」は132ドルだ。既にこの水準を大幅に割り込んでおり、2021年末までのテスラ株の高騰はバブルだったことは明らかだ。それはイーロン・マスク氏のカリスマ性とEV神話が作り上げたものだと言える。

 

EVのメリット、デメリットに関する草の根的検証

欧州連合(EU)は昨年10月7日、2035年にガソリン車など内燃機関車の販売を事実上禁止することで合意した。これに象徴される世界的な電気自動車(EV)などゼロエミッション車への完全シフトというトレンドの中で、内燃機関車(ICE)の存続を含めたトヨタ自動車の全方位戦略は環境団体などさまざまな方面から批判を受け、四面楚歌の時もあった。しかしその後、むしろバッテリー原料の供給問題、充電装置の普及遅れ、そして電力危機と電気料金高騰などのEVの課題が一段とクローズアップされた。そしてアジアなどまだ多くの国で大半の電気は化石燃料由来だという、EVのCO2削減効果への本質的な疑問が少しずつ世論に変化を与えつつある印象もある。

昨年末の休暇中にユーチューブを見ていると、日本などの多くのユーチューバーが、テスラ礼賛から、トヨタ自動車擁護、EV完全シフトへの疑問や批判などさまざまな視点の動画を投稿していることに気付いた。それは単に既存メディア報道の焼き直しだけでなく、日本で販売されているテスラやトヨタ自動車、日産自動車などのバッテリーEV(BEV)での1000キロメートル長距離走行チャレンジなどの実践的検証の報告もある。EVを運転したことのない筆者は、EV充電の難しさにかなり驚く。単に発展途上の技術・製品ゆえの問題も多いが、現在のICE車が簡単に燃料補給でき、長距離運転のストレスがいかに少なかったかを再認識できる。

一方で、EUの方針に忠実に従っているかのように見えた欧州の自動車大手の間でも完全EV移行への疑問も出始めているようだ。EV普及先進国ノルウェーでの電気料金高騰の影響や、ノルウェーが電力を再生可能エネルギーでまかなっている一方で、石油・天然ガス生産大国として世界に大量輸出していることを疑問視するユーチューブ番組も配信されていた。

 

トヨタとテスラはかつて提携していた

2010年にトヨタ自動車がテスラと資本・業務提携するとのニュースは大きなインパクトを与えた。しかし、具体的な協業にまでは発展せず、トヨタは2014年から2016年にかけてテスラ株をすべて売却した。その後、テスラの株式時価総額は2020年7月にトヨタを上回り、EV専業のテスラが勝ち組、トヨタは負け組と評価された。そして、世界的な「EV元年」とされる昨年、市場投入したトヨタ自動車にとって初の量産型BEVとなった「bZ4X」は、当初のリコール問題だけではなく、ユーザーらの走行テストでもさまざまな課題が指摘されている。

一方、テスラもその後、株価が暴落したことで、「テスラの夢物語に幕、時価総額半減で普通のメーカーに」(12月14日付ロイター通信コラム)、「投資家はテスラをハイテク企業ではなく、ただの自動車メーカーだと結論付けた。株価の急変動はテスラがもはや世界を支配することはないと示唆している」(英エコノミスト誌1月7日号)といった分析も出始めている。同記事によると、マスク氏はテスラをアルファベットやアップル、メタなどと同じハイテク企業だとみなしていたという。

昨年12月後半にタイで行われたタイ国トヨタ自動車創立60周年記念式典と関連イベント、記者会見には日本からも多数のメディア、自動車ジャーナリストが参加し、その後、さまざまな媒体で紹介されている。特に日本の自動車専門メディアでは当然、トヨタ自動車擁護の視点が多いだろうと思われるが、ことEVと自動車動力源の議論でのトヨタの主張の擁護が偏向しているとは思えない。電力を化石燃料に依存する中国は、脱炭素化のためというより、後発の自動車産業で日本のメーカーに対抗するにはEVを強化するしかないという国の産業政策があると思われる。一方、欧州は再生可能エネルギーが他の地域より普及している強みを生かすためにEV推進の旗を振っていることは理解できるが、エネルギー・電力危機が続く中で、トヨタなどが主張するEVの全ライフサイクルアセスメントでのCO2削減効果をどう評価するのか、EU政策当局者に話を聞いてみたいと思った。

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