タイでスタートアップイベント相次ぐ 〜 JETROイベントでは西村経産相も登壇 ~

タイでスタートアップイベント相次ぐ 〜 JETROイベントでは西村経産相も登壇 ~

公開日 2022.11.29

今年夏以後、タイで新型コロナウイルスが徐々にエンデミック(風土病)扱いとなり、経済活動の本格再開が期待される中で、バンコクで日本とタイのスタートアップ企業が参加するピッチイベントが相次いでいる。11月16日には在タイ日本大使館、日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所が主催、通信大手トゥルー・コーポレーションが共催した「ロック・タイランド#4」が行われ、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席のためバンコクを訪問していた西村康稔経済産業相も駆け付けた。今回はバンコク市内のITビジネス支援の複合施設「トゥルー・デジタルパーク」で開催されたロック・タイランドを中心にタイでのスタートアップイベントの様子を紹介する。

共創を通じた持続的成長目指す

「今、私たちは人類史的な挑戦に直面している。新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻により、世界中で食料やエネルギーの供給不足、物価高、サプライチェーンの供給途絶のリスクにさらされ、カーボンニュートラルの実現を目指す脱炭素対策も今後の長期的な課題だ。こうしたリスクや課題を克服する鍵はイノベーションだ。社会課題へのソリューションを提供し、次の時代の成長をけん引するプレーヤーとして、ディープテックを開発するスタートアップ企業と新たなアイデアが不可欠だ」

ロック・タイランド#4の開会式に登壇した西村康稔経済産業大臣 = 11月16日、バンコク

西村経産相はロック・タイランドの開会あいさつで同イベントの意義をこう強調した。さらに、今後の日タイの経済関係では、イノベーションや高付加価値経済に基づく「共創(co-creation)」を通じた持続的成長を目指すことが重要だと指摘。その先駆けとなる取り組みが2019年に始まったロック・タイランドであり、多くの日本のスタートアップがタイの大手企業とパートナーシップを組んできたと評価した。

ASEAN地域でのスタートアップに補助金

そして西村経産相は、こうした出会いのチャンスや戦略的提携を確かなものにするために、「経産省はスタートアップ企業自体だけでなく、それを支える投資家、研究機関や大学、地方自治体などに対し補助金や融資を提供し、支援していく」と表明。特に東南アジア諸国連合(ASEAN)地域では、「各国の地元パートナーと協業して挑戦的な実証に取り組むスタートアップ企業などへの補助金予算を約20億円(5億バーツ)に拡大する。さらにデジタル技術により、ASEAN地域のサプライチェーンの高度化に取り組む企業の実証事業への支援として約50億円(13憶バーツ)の予算を確保した」ことを明らかにした。

さらに、「この後、登壇するスタートアップ企業は、医薬品、ヘルスケア、脱炭素、バイオテクノロジー、デジタルトランスフォーメーション、都市開発などさまざまな分野において、革新的な技術とアイデアで、世界を変革する意欲を持っている。その事業はタイの新しい経済ビジョンであり、今年のAPECの「open, connect, balance」というテーマを支える主要コンセプトであるバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルに呼応するものだ」と強調した。

日本の9社がピッチセッションに参加

西村経産相の開会あいさつの後、早速、日本のスタートアップ企業のピッチセッションに移った。今回は社名と簡単な事業紹介にとどめ、各社の事業内容のプレゼンテーションの詳細は次回以後、個別にTJRIニュースレターで報告していきたい。今回登壇したのは以下の9社。

(1)Milk(ミルク)= ハイパースペクトラムカメラで撮影したがん細胞を独自の人工知能(AI)アプリで解析し、即座にリポートする。

(2)MiCAN Technologies(マイキャン)= 世界初のデング熱の重症化リスクを予測する検査キットを開発。

(3)Zeroboard(ゼロボード)= 温室効果ガス(GHG)排出量を算定・可視化するクラウドサービスを提供。

(4)Naturanix(ナチュラニクス)= 3分未満という超急速充電時間を実現したバッテリーパックと充電装置を開発。

(5)Algal Bio(アルガルバイオ)= 顧客や市場のニーズに合わせて最適な藻類バイオ・ファウンダリー・プラットフォームを構築。

(6)AI inside(エーアイ・インサイド)= 日本での市場シェア1位のAI-OCR企業で、自社開発のAI技術による高い文字認識精度が強み。

(7)Liberaware(リベラウェア)= 小型ドローンと3次元化技術を組み合わせた屋内狭小空間の点検ソリューションを開発。

(8)Zip Infrastructure(ジップ・インフラストラクチャー)= 都市の交通渋滞に対応し、柔軟な移動を提供する自走型ロープウェーを開発。

(9)Neural Group (Thailand)(ニューラルグループ)= 独自開発のAIカメラを用い人の行動などを可視化、スマートシティー実現を目指す。

エネルギー、脱炭素分野が主な投資対象に

続いて、タイの大手企業傘下のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)5社が、投資対象となるスタートアップ企業や日本企業に求めるものなどについて意見を表明するリバース・ピッチが行われた。

タイの大手企業傘下のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)5社によるリバース・ピッチ = 11月16日、バンコク

まずチャロン・ポカパン(CP)グループ傘下のトゥルー・インキューブのジュタマート・ガムワッタナ氏は、「持続可能な社会を実現するために一緒に事業を展開してくれるパートナーを探している」とした上で、対象分野はスマート工業、自動車用新エネルギー、エネルギー効率化・貯蔵、農業技術、自動運転で、ディープラーニングやAI、人々の生活を豊かにする技術、デジタル・ヘルスケアにも関心があるとした。

国営タイ石油会社(PTT)傘下のPTTエクスプレッソのワリット・チャロンワラウット氏は、再生可能エネルギーや未来エネルギー、バッテリー、ライフサイエンス、バイオ・循環型・グリーン(BCG)分野に興味があり、スタートアップ企業について「その技術が会社を強化し、タイに利益をもたらすなら大歓迎だ」と訴えた。

タイ発電公社(EGAT)傘下のイノパワーのオーム・カオサアート氏は電気自動車(EV)、脱炭素化、代替エネルギー、省エネルギー技術、AIを活用したエネルギー効率化などに関心があると述べた。

サイアム・セメント・グループ(SCG)傘下のアドベンチャーズのサジーカーン・プレスコット氏は、SCGのコストを削減できる技術やハイパーオートメーション、脱炭素化、デジタル、ディープテックなどの分野で、新規事業とビジネスモデルを探しているとした上で、SCGにはタイを含む東南アジアのネットワークがあると強調した。

カシコン銀行傘下のビーコン・ベンチャー・キャピタル(ビーコンVC)のタナポン・ナ・ラノン氏は、フィンテックのアプリケーションや、金融の新市場に参入できるスターアップに興味があるとしたほか、来年には環境・社会・企業統治(ESG)と二酸化炭素排出ネットゼロ分野への投資も計画していることを明らかにした。

日本のディープテックを評価

これらタイ大手企業のCVCが日本のスタートアップに期待するものはとの質問に対しては、「日本のスタートアップの技術を評価しており、タイではまだ展開されてない技術があれば、一緒に共創していきたい」(トゥルー・インキューブ)、「両国のスターアップが協力すれば、お互いの世界的なネットワークやエコシステムを強化できる」(PTTエクスプレッソ)、「タイはディープテックまだ少なく、日本のディープテックを評価している」(ビーコンVC)などの声が聞かれた。一方で、アドベンチャーズはスタートアップの課題と対策について「参入する新市場では競合する会社やインフラなどが違う。このため、Market validation(市場検証)チームが共同事業する前の3~4カ月間、市場参入が可能かどうかテストしている」と説明した。

ロック・タイランド閉会にあたり、主催の日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の黒田淳一郎所長は、新たなビジネスを創出するイノベーションではスタートアップ企業の活躍が不可欠だとした上で、「そのためには従来のプレーヤーに加えて、両国のスタートアップ企業が、課題解決に向けた新たな技術やビジネスモデルを双方向で発信、共有、提案するとともに、ASEANの財閥大企業や官民が持つ人脈やネットワークと、日本のスタートアップの技術力が手を合わせ、共創に向かうことが最も近道になるだろう」などと述べ、イベントを締めくくった。

日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の黒田淳一郎所長 = 11月16日、バンコク

東南アジア最大規模のテック展示会

今年8月26~27日には、東南アジア最大規模のテック展示会と銘打つ「テックソース・グローバル・サミット2022」がチャオプラヤ川沿いの大型商業施設アイコンサイアムで開催された。同サミットは2012年に始まり、テック関係の世界の著名人が多数参集し、深く専門的な知見を披露するのが特徴。今回も世界各国から300人以上のスピーカーと1000社以上のスタートアップ企業が参加し、150以上のセッションが行われた。来場者数も1万人以上という大規模なイベントとなった。

同サミットではジェトロが日本のスタートアップ企業8社が出展する「ジャパン・パビリオン」を開設、26日には各社がプレゼンテーションを行うピッチイベントも開催した。

テックソース・グローバル・サミット2022の「ジャパン・パビリオン」

参加したのは以下の8社で、合計で150件以上の商談が行われた。

(1)Upward=営業支援DXサービスの開発

(2)アジラ=人の異常行動を感知するAIセキュリティーシステムの開発

(3)Peel Lab=パイナップルやココナッツなどの植物性皮革の製造

(4)ケイナン・アドバイザーズ=ブロックチェーン技術を活用した不動産投資プラットフォームの開発

(5)ソラミツ=ブロックチェーンを活用したデジタル通貨決済システム「バコン」の開発

(6)レイ・フロンティア=人工知能による行動データ・位置データ分析プラットフォームの開発

(7)プロタゴニスト=ウェブ3のタレントデータベースの開発

(8)クレジットエンジン=オンライン融資、債権回収など金融業に特化したSaaSシステム、ソリューションの開発

タイのスタートアップ企業を紹介するJ-Bridge

また、ジェトロはタイ・イノベーション庁(NIA)と共催で、「J-Bridge 有望タイ・スタートアップとの協業・連携ウェビナー2022」を開催中だ。第1回は10月20日、第2回は11月22日に開催済みで、今週11月29日にはフードテックをテーマに第3回目が行われる。

第1回では、タイを代表するアクセラレーターの1つである「RISE」の最高経営責任者(CEO)兼共同設立者のスパチャイ氏が登壇。RISEは東南アジア最大級のオープンイノベーションプラットフォームで、今までに2000社以上のスタートアップが同社のアクセラレータープログラムを卒業しているという。また第2回ではデジタル経済社会省傘下の国家デジタル経済促進事務局(DEPA)のチナウット副長官が講演した。第3回はフードテックに特化した企業の成長を加速するアクセラレーターとして、水産加工大手タイ・ユニオン(TU)などが設立した「SPACE-F」のオープンイノベーション・リーダーが登壇する予定だ。

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TJRI編集部

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