[Feature] 商務省と経産省、経済政策対話フォーラム開催 〜 タイはBCG経済、日本はAJIFをアピール

[Feature] 商務省と経産省、経済政策対話フォーラム開催 〜 タイはBCG経済、日本はAJIFをアピール

2022.06.14 Feature

タイ商務省と日本の経済産業省、日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は5月9日、日タイ修好135周年を記念し、両国の貿易・経済関係を深める目的で「日タイハイレベル経済政策対話フォーラム」を開催した。

同フォーラムは商務省内で行われたオンライン会議には両国政府関係者ら100人超が出席、オンラインでは関係者ら約380人が参加し、日タイ間の経済協力やタイのバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルなどをテーマに活発な討論を行った。

TJRIフィーチャーの第1回ではタイ経済の将来と日本がタイ経済に果たせる役割を考える上でさまざまな材料を提供してくれた同フォーラムの様子を紹介する。

 

AJIFのキーワードは「共創」

開会あいさつではまず商務省のシニット副大臣が登壇し、「新型コロナウイルス流行による世界的な経済減速にもかかわらず、2021年のタイと日本の貿易額は前年比20%超増加した」と報告した。特に鶏肉やエビ加工品、タピオカ・でんぷん製品などの輸出では80%以上が日タイ経済連携協定(JTEPA)と日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)の恩恵を受けていると指摘。さらに2022年初に発効した地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に伴う関税率引き下げ、通関手続きの簡素化などにより貿易はより促進され、発効後最初の3カ月間 のRCEPを通じたタイの日本向け輸出額は1700万ドル超と、国別の日本輸出額ではトップになったという。

同副大臣はさらに、「日本のグリーン成長戦略」にも沿ったタイのバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルは、クリーンエネルギー、電気自動車(EV)、スマートエレクトロニクス、デジタル、健康・医療など将来有望な産業の貿易と投資を促進することになるだろうと訴えた。

続いて日本から萩生田光一経済産業相がオンラインで講演し、自身が今年1月にタイを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)各国を訪問した際に日本の新たなイニシアチブとして発表したのが、ASEANとともに未来志向の新たな投資を積極的に行っていく「アジア未来投資イニシアチブ(AJIF)」だと紹介。そのキーワードは「共創」であり、メコンの中心に位置し、グローバルサプライチェーンのハブとして集積した製造業がタイの強みであり、その魅力をさらに高めるために、①サプライチェーンの多元化に向けた日本企業によるタイへの設備投資を後押し ②強靭なサプライチェーン構築のためにデータ利用・連携を促進していく-と強調。

さらに高専システムによる優秀な人材育成、製造業のデジタル化を支える「高度な産業人材の育成」も重要だと訴えた。同相はこのほか、タイのBCG経済モデルに日本がパートナーとして協力すると約束するとともに、RCEPの着実な利用と実施に期待を表明した。

 

BCG経済モデルは画期的構想

現場で登壇した梨田和也駐タイ大使は、今から135年前の1987年9月26日に「日タイ修好宣言」で両国の国交が正式に開かれたが、日タイ交流は御朱印船により「商業」「交易」が始まった約600年前に遡れるなどと歴史を回顧。その上で先ごろ岸田文雄首相が二国間関係のためでは約10年ぶりに首相としてタイを訪問し、二国間にとどまらずアジア太平洋地域のさまざまな議論を両首脳間でかわしたとし、日本とASEAN地域の経済関係強化は「日タイ両国関係を基礎に他国にも拡げていく。具体的には日本とタイの双方の企業が『共創』の精神で、タイ国内のみならず地域の他国でのビジネスを展開していくことが重要だ」と訴えた。

またオンライン参加した日本貿易振興機構(ジェトロ)の佐々木伸彦理事長は、タイはデジタル・トランスフォーメーションやそれに伴う人材育成・リスキリング、高齢化やヘルスケアの拡充といった日本と同じ課題を抱えているとした上で、「日系企業や日本人起業家の多いタイならではの両国が連携したオープンイノベーション、社会課題の解決が期待できる」と指摘。プラユット首相が2021年1月に提唱したBCG経済モデルについては、「カーボンニュートラルや気候変動への対応を経済の足かせとせず、タイ経済・社会の高度化に寄与させて、むしろ成長につなげていくという画期的な構想だと感じている」と高く評価した。

 

JTEPA活用率は85%に

その後のセッション1では「タイと日本の間での貿易と経済における新たなチャレンジ」をテーマに討議した。まずタイ商務省のオラモン国際貿易交渉局長がタイと日本の貿易額は2021年に前年比20%増の606億7100万ドルに達し、タイにとって日本は2番目に大きな貿易相手国だと報告。

『タイから日本への輸出上位5品目』 出所:タイ商務省貿易交渉局(DTN)

タイから日本への輸出額は249億8500万ドル(2006年比52.5%増)で、上位5品目は、①自動車・同部品 ②鶏肉製品 ③化学品 ④機械・同部品 ⑤コンピューター装置・部品だったという。

『タイの日本からの輸入上位5品目』 出所:タイ商務省貿易交渉局(DTN)

一方、タイの日本からの輸入額は356億8500万ドル(同39%増)で、上位5品目は、①鉄鋼・同製品 ②機械・同部品 ③電子機器・同部品 ④自動車部品・装置 ⑤化学品などいずれも飛躍的な伸びを示しているという。

その上で同局長は日タイ経済連携協定(JTEPA)、日本とASEANの包括的経済連携協定(AJCEP)、日中韓などアジア15カ国が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)の三つの地域経済連携協定を挙げ、これらの協定の対象製品の全輸出額に占める協定の恩典を活用したシェアはJTEPAで84.58%だった一方で、AJCEPでは4.27%にとどまっていると指摘。また今年1月に発効したRCEPは世界の総生産(GDP)の33.6%、全貿易の30.3%、人口の28.6%を占めるとした上で、発効後2カ月間でRCEP利用の輸出価値は11億6552万バーツに達したことを明らかにした。

 

AJIFの事業はすでにスタート

続いて経済産業省の矢作友良・内閣官房審議官が登壇し、日本が提唱した「アジア未来投資イニシアチブ(AJIF)」について官民で日ASEAN経済関係の成長を目指すものだと説明。「リアリズム(各国の実情に真摯に向き合い、実効性のある解決策を提供)」「イノベーションとサステナビリティ―」「未来の共創(日本と各国が対等かつ、補完的なパートナーとして地域の未来を共に作っていく)」の三つの理念を重視していると強調した。

その上で、AJIFに基づく具体的な投資支援策として「サプライチェーン多元化事業」、今年3月に公募した「デジタル技術を活用したサプライチェーン管理の高度化支援事業」、そしてこの日、3回目の公募を開始したという「デジタル技術を活用した社会解決ビジネスの促進事業」を紹介。「官民を挙げてコロナ禍からの経済復興を目指すとともに、持続可能な経済社会の基盤への未来投資を促進し、日本とタイの共創を進めていきたい」と訴えた。

 

タイはビジネスパートナーの集積が魅力

さらにジェトロ・バンコク事務所の竹谷厚所長は、在タイの日本企業数は2008年から2020年までに51%増加したことや日系企業数が世界で最も多いASEAN域内でもタイが最も多く、またアンケート調査結果からはタイの魅力として「ビジネスパートナーの集積」「駐在員の生活環境」「基礎的産業の集積」「インフラの整備状況」が評価されていることが分かったなどとの興味深いデータを紹介した。その上で、「AJIFにより政策の方向性がクリアになった」「RCEPはタイ進出日系企業にとって必ず助けになる」と指摘。萩生田経産相が来タイした際にはジェトロは、タイ投資委員会(BOI)、東部経済回廊(EEC)事務局と協力の覚書(MOU)に調印したことに加え、タイ自動車研究所(TAI)とは電気自動車(EV)や自動運転、カーボンニュートラルの達成に向けた次世代自動車産業に関する対話を行っていくためのMOUを結んだことを明らかにした。

「セッション1」の最後ではタイ投資委員会(BOI)のチャニン副長官が改めてバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルの対象事業への投資恩典について説明した。同副長官は「BOIは柔軟性を持つ必要があり、投資家と緊密に対話をすることでより現実的な政策にする。BOIの日本事務所が皆様のニーズを把握して、BCGモデルに沿った政策を展開していかなければならない。タイはもはや低賃金の国ではなくなったので、より高度な技術で産業を発展させていかなければならない。BOIは大学や企業と連携して人材の確保、人材育成を始めている」とアピールした。

 

RCEPの原産地証明書の利用が急増

セッション1の質疑応答では主に今年1月に発効したRCEPについての質問があり、それぞれの立場からの回答があった。RCEPと他の自由貿易協定(FTA)との違いについて矢作審議官は「RCEPによって原産地規則の利便性が高くなった。また広域EPAという点に着目して複数のRCEP締約国の工場で製造した製品を一度日本に集約してRCEP締約国へ輸出しようという動きもある」と説明。また、日本企業にとってのRCEPのメリットについてオラモン局長は「他のFTAと違い品目別原産地証明書が利用でき、他の国の原産地も含めて証明書を作ることができる」ことや「関税手続きが簡素化され、短時間で手続きができる」「オンラインで申請できるようになった」ことなどを挙げた。

『2022年1〜3月のRCEPの原産地証明書(C/O)の発行数』 出所:JETRO

こうした利便性の向上を受けて、竹谷所長は、RCEP発効後3カ月の段階で、「原産地証明書(C/O)の発行数は、JETPAがまだ一番多いが、RCEPもこの3カ月間で利用頻度がぐっと上がってきている。またタイにとっても中国や韓国よりも日本向けの輸出の方がRCEPを使っているというデータも出ている。今後十分なチャンスがある」との期待を表明した。

 

JCCはBCG委員会、ヘルスケア産業部会立ち上げ

続くセッション2では日タイ間の貿易経済協力関係について、日タイの民間経済団体や民間企業の幹部がそれぞれの取り組み事例を報告した。バンコク日本人商工会議所(JCC)の加藤丈雄会頭(泰国三井物産社長)がJCCの概要を説明し、特に昨年10月に「BCG」に関する新委員会を設置し、議論を重ねていること、さらにヘルスケアが今後の成長分野として有望だとして「ヘルスケア産業部会」を立ち上げたことを報告した。

また前タイ工業連盟会長(FTI)で現在、APECビジネス・アドバイザリー・カウンシル(ABAC)の会長を務めるスパン氏がタイの産業分野における日本企業の重要性や日タイが協力すべき主な分野などについて説明した。

民間企業では、デンソー・インターナショナル・アジアの末松正夫上級副社長が登壇し、同社のタイ事業の現状を紹介した。同副社長は今後の事業の方向性について、「自動車は100年に一度の大変革期を迎えていると言われている。われわれは特に『コネクト』『自動運転』『シェアリング』『電動化』のいわゆる『CASE』に力を入れていく。電動化では環境負荷低減と高効率化モビリティーの実現、安全が大切な自動運転領域では、事故のない安全な社会と自由で快適な移動の実現、コネクトの分野では、車、人、モノがつながる新たなモバイル社会の実現を目指していく。非自動車分野では、今まで培ってきた高い技術力を社会・産業の生産性向上に貢献していきたい。特に農業分野では、当社のエアコン技術を使ってイチゴの旬をずらして、いつでもおいしいイチゴが提供できるよう、現在、チェンマイで実証実験を行っている」と報告した。

 

デジタル化ではタイの若者に期待

一方、タイ側からはSCGケミカルのタナウォン最高経営者(CEO)兼社長が参加し、「私たちが民間企業のサプライヤーになるためには、JTEPAやAJCEP、RCEPなどのFTAだけでは足りなくて、パートナーとの密接なコラボレーションが重要だ。さらに製品の品質と一貫性が重要だ。日本企業は品質の要求は非常に高い。サービスやテクニカルサポートでも充実したものを提供しなければならない。新型コロナウイルス流行の2年間はサプライチェーンが大変な状況だったが、私たちのサプライチェーンは強固だったので、納期を守ることができた。この強固なサプライチェーンを確保することができれば経済連携もうまくできるだろう」と述べた。

さらに質疑応答では、ABACのスパン会長が、日タイ企業がEVを生産していくためにタイ政府はその環境整備に対応していると強調。一方、デンソーの末松副社長は「タイはモノづくりの聖地であり、日本のいろんなノウハウを使って世界を席巻していくことが十分可能だ。特に現実世界での生産ノウハウをデジタル化やスマート化といった仮想の世界の中でいかに形式知化、「見える化」してモノづくりの付加価値を最大化することが重要だ」と指摘。その上で、「タイでは若いデジタル世代の台頭が顕著だ。デジタル化を実際にアプリケーションとして使っていくのは日本よりもむしろタイではないのかと思っている」との認識を示した。「モノづくりの思想をタイにしっかり根付かせて、タイからASEAN、世界へ発展、発信していただきたい」とエールを送った。

RELATED NEWS

関連記事