[Column] タイが目指すBCG経済とは何か?

[Column] タイが目指すBCG経済とは何か?

2022.06.14 Column

「タイ政府は今後5年間で国内総生産(GDP)を1兆バーツ増やすという野心的な目標を達成するためにバイオ・サーキュラー(循環型)・グリーンのBCGモデルを採用する」とタイ英字紙バンコク・ポストが伝えたのが今から2年半以上前の2019年11月29日のことだ。筆者もこの記事で初めて「BCG」という表現を知った。最初は欧米の新しい経済理論・政策などで既に使われている用語かと思ったが、ネット上で探しても見当たらず、どうやらタイのオリジナルだと知った。

同記事によると当時の高等教育・科学・研究・技術革新相だったスウィット氏が「閣議でBCGモデルの実行を最優先することで合意した。これは東部経済回廊(EEC)と『タイランド4.0』の関連政策としても重要だ」と説明。その対象分野として、食品、医薬品、エネルギー、バイオ化学、観光などを挙げた。これ以来、現在までプラユット首相自ら、そしてタイ投資委員会(BOI)を含む経済関連政府機関などがことあるごとにタイの国家戦略としてBCGに言及するようになった。

 

タイランド4.0のリアリティーは

筆者が前回初めてタイに赴任した2018年当時のタイの国家経済戦略は「タイランド4.0」で、当時のプラユット政権の副首相だったソムキット氏をリーダーとする米ノースウェスタン大学同窓のチームが作ったとされる。それはタイが先進国入りを目指すために東部経済回廊(EEC)で展開している、①次世代自動車 ②スマートエレクトロニクス ③先端バイオ・農業テクノロジー ④食品加工 ⑤富裕層向け観光・医療ツーリズム ⑥ロボット産業 ⑦航空産業 ⑧健康・医療産業 ⑨バイオ産業 ⑩デジタル産業-などを重点産業分野にするというものだった。実はこのタイランド4.0も、ソムキット氏のチームの一員で、現在のBCGモデルを立案したスウィット氏が中心になって策定されたという。

ただ、タイランド4.0は先進国が強みを持つ先端産業を総花的に育成・発展させようというものだ。自動車産業こそ日本と二人三脚で東南アジアのハブになるまで発展させることができたものの、「中所得国の罠」を脱することができないタイで果たしてリアリティーがあるのかという疑問を持たざるを得なかった。そうしたタイの将来の経済発展モデルに対する不透明感に対応する形で登場したのがBCG経済モデルだった。それは地球温暖化対策と国連の「持続可能な開発目標(SDG)」といった世界的課題に対するタイ政府の回答でもあった。

そしてタイの政府と経済界は、新型コロナウイルス流行に伴う不安感も相まってタイが自ら強みを持つ分野に基軸を据えるという方向性に徐々に確信を強めつつあるようだ。

 

日本のグリーン成長戦略と親和性

日本の萩生田光一経済産業相が今年1月にタイを訪問した際に、タイのスリヤ工業相と取り交わした「イノベーションと持続可能な成長に向けた共創」と題する協力枠組み文書でも、タイのBCG経済モデルなどに基づき次世代自動車、スマートエレクトロニクス、バイオ技術、自動化・ロボットなどの分野で、タイの技術革新・人材育成を支援していくことが盛り込まれた。日タイ両国政府は昨年8月の日タイ・ハイレベル合同委員会で、タイのBCG経済モデルと日本の「グリーン成長戦略」とは親和性が高いとし、連携していくことで合意していた。

BOIによると、2021年のBCG産業への投資申請は件数が前年比63%増の746件、金額は同123%増の1542億3600万バーツになった。タイ政府は2月8日の閣議でBCG経済による国家発展を推進する行動計画(2021~2027年)に約410億バーツを投じることを承認した。

タイのBCG経済モデルを受けてバンコク日本人商工会議所(JCC)は昨年10月に「BCGビジネス委員会」を発足させた。当初、日本企業もタイの「BCG経済モデルとは何か」といった戸惑いを隠せなかった印象もある。しかし、徐々に具体的な事業案件に関する情報交換、商談も始まる中で、主に自動車産業で築き上げた日タイ蜜月関係の新たなステージへの期待も高まりつつある。このTJRIウィークリーでも今後、「BCG経済モデルにおける日タイ共創」も主要テーマとしてその具体的な道筋を探っていきたいと思う。

第1回のフィーチャーでは、5月9日に開催された「日タイハイレベル経済政策対話フォーラム」の様子を詳しく紹介することで、新たな日タイ協業の在り方を考えるきっかけにできれば幸いだ。

(TRJI編集長・増田篤)

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