タイ企業は「新常態」に適応 ~ SET年次フォーラム「新たな希望」~

タイ企業は「新常態」に適応 ~ SET年次フォーラム「新たな希望」~

公開日 2022.09.06

タイ証券取引所(SET)は8月24日、バンコクのグランドハイアット・エラワンホテルで年次フォーラム「タイランド・フォーカス2022」をオンラインとオフラインのハイブリッド型で開催した。オフラインは3年ぶりで、上場企業124社の経営トップが、世界各国から参加した機関投資家161人に対し情報提供した。

SETのパコーン社長(写真:© 2022 The Stock Exchange of Thailand)

同フォーラムは今回が16回目で、今年のテーマは「新たな希望」。SETのパコーン社長は開会あいさつで「タイの経済と資本市場は試練に耐え、(新型コロナウイルス流行の)パンデミックから回復し、新しい可能性と世界のトレンドに適応、再び世界の投資家にアピールできるレジリエンスと能力があると信じている。タイ企業は、植物由来肉や薬用食品といったフードテック産業などニューノーマル(新常態)に適応している。新しい観光業も伸びており、世界の人口動態の変化とともにタイの強みを生かせるようになった。さらに近年、デジタルトランスフォーメーションや新Sカーブ産業など、新しいタイプの企業がSETに上場され始めた」と概観。さらに、企業は持続可能性の原則やESG(環境・社会・ガバナンス)を導入する必要が出てきたと強調した。

スムーズな離陸に向けた政策正常化

アーコム財務相(写真:© 2022 The Stock Exchange of Thailand

同フォーラムの基調講演ではまずアーコム財務相が登壇。「タイがパンデミックから復活しつつある中で、地政学的な緊張状態に見舞われ、商品価格が急上昇、インフレ圧力が高まり、経済全般を圧迫している。しかし、タイ経済は食品輸出や観光、国内需要主導で経済活動を再開、持続的な回復方向に向かいつつある」との見方を示した。そして、緊急融資などの政府の支援策を説明した上で、新型コロナ後のタイ経済の未来について、「もはや成長だけにフォーカスすることはできず、社会の不平等、気候変動への警告を無視できない。タイ政府はより均衡が取れ、包括的で環境に優しい高付加価値経済にいかに移行していくかにより焦点を合わせている」と指摘。特に重要なのは、全分野でのインフラ整備、東部経済回廊(EEC)の開発加速、グリーン経済成長の質の向上、金融リソースの活用だと訴えた。

タイ中央銀行のセタプット総裁(写真:© 2022 The Stock Exchange of Thailand

続いてタイ中央銀行のセタプット総裁が「スムーズな離陸のための政策の正常化」をテーマに基調講演した。同総裁はまず、「スムーズな離陸」に必要なのはインフレの抑制、金融システムの機能の保持だとした上で、需要を抑制し、インフレ率を引き下げるための積極的な利上げは、しばらくは正しいと指摘した。ただ、それは各国の高インフレの真の原因や景気循環の段階、経済構造に依存しており、正しい政策アプローチはより微妙で、各国で異なると説明。その上でタイが「緩やかで慎重な」金融政策の正常化を始める決断をしたのは、他の国に比べて回復が遅れているというタイの景気循環の段階を反映したものだとの認識を示した。

すべての人に住みやすい都市に

そして今年のフォーラムの目玉となったのは、バンコク都知事選で圧勝し、6月に就任したチャチャート知事の講演だ。同知事はまず、「バンコクは今や世界中から観光客やビジネスを受け入れる準備ができている」とした上で、人口は公称550万人、実際には850万~1000万人とタイの全人口の12%を占める大都市にも関わらず、予算は国の予算の2.6%を占めるに過ぎないと指摘。バンコクはタイ経済の中心であり、タイの国内総生産(GDP)の32%を占めていると強調した。

チャチャート知事(写真:© 2022 The Stock Exchange of Thailand

さらに同知事は、昨年初めて人口が減少したものの、隣国からの労働力の供給は豊富であり、また医療システムは世界28位と良好で、新型コロナ流行にはうまく対応したと評価。今後はルールを改善、汚職を減らし、学校の質を向上させるほか、渋滞問題では「歩行や公共交通機関など自動車の代替となる移動手段を改善させたい」と意欲を示した。また観光の人気は世界でもトップだが、「住みやすさ」のランキングは140都市中98位にとどまっており、「すべての人に住みやすい都市に」をキーワードとして、クリエーティブ経済、観光、医療・健康、EEC拡大などの戦略を推進すると表明。また、バンコク都はこのほど、タイ工業連盟(FTI)、タイ中銀などと連携し、民間部門との共同委員会を設置したことも明らかにした。

2021年の投資対象トップは電子・電機

同フォーラムではこのほか製造業の投資動向、フードテック産業、生活インフラ、イノベーションというテーマごとのパネルディスカッションも行われた。

「戦略産業におけるタイへの投資機会の拡充」と題するセッションでは、タイ投資委員会(BOI)の外国投資・マーケティング部門エグゼクティブ・ディレクターのラチャニー氏が、特に経済再開に対応したタイへの投資状況について、2021年の投資申請額の業種別ランキングを紹介。トップが電子・電機(1044億1000万バーツ)で、医療(618億4000万バーツ)、石油化学・化学(482億7000万バーツ)、農業・食品加工(447億8000万バーツ)、自動車・同部品(236億5000万バーツ)と続いたとした。さらに国別では日本、中国、シンガポール、米国、台湾の順だったと報告。タイ政府は国の中核産業の投資を強化し、さまざまなインセンティブを増やすことで外国人投資家の誘致を目指すと強調するとともに、20カ年の国家長期戦略でも、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルを重視しているとアピールした。

また、「タイ~生活の目的地」と題するセッションでは、バンコク・デュシット・メディカル・サービス(BDMS)のポラマポーン社長が、「タイは医療ツーリズムで有名だ。2022年までに、この分野の収入は6億ドルだ」とし、米国の35億ドル、韓国の6億5500万ドルに次ぐ第3位だと報告。最も人気のある目的地はバンコク、プーケット、パタヤ、チェンマイ、サムイ島だと明らかにした。グローバル・ウェルネス・インスティテュートによると、世界のヘルスケア市場は年平均9.9%で成長し、コロナ流行前の4兆9000億ドル、2020年の4兆4000億ドルから2025年には7兆ドルまで拡大すると予測しているという。同社長はタイの強みは治療費が競合国より40〜70%安いことや、インフラ、技術、プロの医療スタッフ、タイ人のホスピタリティ、世界有数の観光地などがチャンスとなり、タイ政府はアジアの医療ハブ化を支援する政策を取っていると強調した。

TJRI編集部

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