タイ医療機器産業の見通し 〜クルンシィ・リサーチのリポートより〜

タイ医療機器産業の見通し 〜クルンシィ・リサーチのリポートより〜

公開日 2023.11.14

アユタヤ銀行の調査会社クルンシィ・リサーチは今年9月、タイ医療機器産業の見通しに関する最新リポート(2023~2025)を公表した。それによると、社会の高齢化や医療ツーリズムへの需要拡大、新型コロナウイルス流行後の予防医療への関心の高まりを背景に医療機器メーカーは2023~2025年にかけて堅調な伸びを実現し、国内販売額は年平均5.5~7.0%、輸出額は同6.5~7.5%増加すると予想している。タイ政府は「タイランド4.0」「バイオ・循環型・グリーン(BCG)」という2つの国家経済戦略でも医療・健康産業を中核分野の1つに位置付けており、その中で将来を担う製造業の一分野として医療機器産業の育成を目指している。今回はタイの医療機器産業の基本構造、現状と見通しを紹介する。

タイの医療機器輸出の85%は使い捨て製品

同リポートは「Overview」で、タイの医療機器産業の市場規模は国内総生産(GDP)の1.2%を占め、患者数、高齢者数の増加と健康ビジネスの成長を背景に拡大を続けていると概観する。そして医療機器・設備はその利用方法によって、①注射器、チューブ、カテーテル、手術用ゴム手袋、歯科治療機器などの使い捨て機器②最短1年間は使える耐久医療機器で、救急箱、車椅子、医療用ベッド、手術・歯科治療設備、診断・レントゲン設備など③透析前の血液型検査や妊娠検査などの試薬や検査キット―という3つに分類されると説明した。

そして、コロナ流行の終息でその予防・治療に使われる医療機器への需要が減退する中で、2022年の全世界の医療機器・設備の市場規模は前年比7.3%減となったと報告。分野別では市場価値の65.8%を占める耐久財が同8.1%減、シェア29.6%の使い捨て機器が同7.6%減、シェア4.6%の試薬や検査キットは同8.6%減だった。医療機器輸出国のランキングはドイツ、中国、米国、日本、韓国の順。輸入国の上位は米国、ドイツ、中国、英国、フランスの順だった。

一方、2022年のタイの医療機器輸出は、85.3%が使い捨て製品で、手術用ゴム手袋、カテーテル、注射器などが中心。主な輸出先は米国が23.5%でトップ、日本が11.3%、オランダが7.8%、中国が7.6%、ドイツが7.1%を占めた。

タイにおける医療機器の輸出入データ(2022年)タイ医療機器産業の見通し 〜クルンシィ・リサーチのリポートより〜
「タイにおける医療機器の輸出入データ(2022年)」出所:Krungsri Research

タイ商務省事業開発局によると、2022年時点で医療機器メーカーの登録企業数は1068社で、このうち94.0%が中小企業で、売上高のシェアはわずか4.8%だ。残り6.0%が中堅・大企業で、売上高のシェアは95.2%と大半を占めている。保健省・食品医薬品局(FDA)によると医療機器の輸入業者として2000社以上が登録されているという。

タイの医療機器生産の特徴としては、「国内原材料(プラスチックや天然ゴム)を利用し、相対的に単純で技術的に洗練されていない方法で製造される基礎的な製品が大半だ」と指摘。約70%が天然ゴム手袋や皮下注射器だという。一方で耐久医療機器や試薬・検査キットは国際基準を満たさなければならないことが課題になっている。

タイの医療機器メーカー種別と割合(2022年)タイ医療機器産業の見通し 〜クルンシィ・リサーチのリポートより〜
「タイの医療機器メーカー種別と割合(2022年)」出所:Krungsri Research

中国、ベトナムなどの参入で、2022年の輸出は急減

そしてタイの医療機器産業の現状「Situation」について同リポートはまず、「2020年初めの新型コロナウイルス感染拡大により、医療サプライへの需要が急増し、各業者は特にマスクや、手術用手袋など使い捨ての医療用個人防護具(PPE)や検査キットの生産能力を大幅に増強した」結果、2020~2021年にかけて医療機器・設備の需要は世界中で増加し、タイ製医療機器の輸出は年平均で30.8%増になったという。

そして2022年も、①経済活動や社会生活が通常に戻る中で、患者も治療を受けるために病院に戻ってきた②同年7月1日に外国人旅行者の受け入れを再開したことで医療ツーリズムなどの外国人の患者のタイ訪問も可能になった③コロナ流行の継続で、検査キットやワクチン関連商品、PPEなどへの需要は持続した―ことで、医療機器の需要は拡大を続けたとしている。

こうした背景から2022年のタイ国内市場への医療機器販売額は前年比2.0~2.2%増になったものの、2016~2020年の平均伸び率の3.2%は下回ったという。一方で、2022年の医療機器輸出額は1200億バーツで、前年比33.5%減になった。輸出先別では米国が52.4%減、日本が22.1%減、オランダが13.3%減、ドイツが22.0%減でこの4カ国で輸出総額の49.7%を占めた。一方、主要市場では唯一中国向けが6.8%増加し、シェアは7.6%だった。

タイの医療機器における国内売上推移と同貿易額(右)タイ医療機器産業の見通し 〜クルンシィ・リサーチのリポートより〜
「タイの医療機器における国内売上推移(左)、同貿易額(右)」出所:Krungsri Research

品目別では、主力の使い捨て製品が前年比38.5%減と落ち込みが深刻だった。こうしたタイ製医療機器の輸出急減は、コロナ流行により、中国やベトナムなどから企業の参入ラッシュがあったためと指摘。例えばゴム手袋輸出ランキングで、従来、タイはマレーシアに次ぐ2位だったものの、2021年には中国に抜かれて3位に転落した。さらに2020~2021年に各国の輸入急増の反動もあり、例えば世界最大のゴム手袋輸入国である米国へのタイ製ゴム手袋輸出量は2022年に前年比92.9%の激減となった。

さらに2022年の医療機器メーカーの投資額はタイ投資委員会(BOI)の促進策承認額で前年比88.7%の大幅減だった。これはコロナ流行で2021~2022年に投資額が急増した反動だと指摘。特に医療用手袋、診断キット、レンズ、殺菌剤などの製造設備への投資が9割減になったと報告している。

2023年上半期のタイの医療機器市場は、社会生活、経済活動の回復、隔離措置の緩和とマスクの使用減少を受けて拡大が続いている。具体的にはインフルエンザが前年同期比390.9%急増したことやコロナ流行の継続の一方で、外国人旅行者は1290万人まで増え、タイの病院での治療に関心が高まったことなどが背景だという。この結果、タイの医療機器とPPEの需要は前年同期比3.3%増加し、国内工場の稼働率も上昇した。一方で、今年上半期の医療機器輸出額は前年同期比4.1%増の590億バーツになった。特に日本への輸出額は同28.9%増だった。輸出品目の主力は医療機器市場全体の87.1%を占めた使い捨て製品で前年比5.4%増だった。

高齢社会入り、健康ツーリズム拡大で医療機器市場は成長続く

同リポートは2023~2025年の医療機器市場の見通し「Outlook」については堅調な伸びが続くとし、2023年の伸び率は5.5%増になった後、2024、2025年は6.0~7.0%増に加速するだろうとの予測を明らかにした。同市場はタイ経済の底堅い伸びとそれに伴う病院サービス業の成長に支えられて拡大が続くと指摘。さらに外国人旅行者数は2025年までにコロナ前の2019年の水準近くまで回復し、タイの医療水準に対する認知度も高まるだろうとの見方を示した。さらにタイの医療機器の輸出額は、使い捨てPPEやガラス製レンズ、試薬・検査キットの好調さに支えられ年率6.5~7.5%増になるだろうと予想している。

タイ医療機器の国内売上と輸出額の推移、タイ医療機器産業の見通し 〜クルンシィ・リサーチのリポートより〜
「タイ医療機器の国内売上と輸出額の推移」出所:Krungsri Research

また医療機器産業の拡大は次のような要因に支援されるとした。

(1)高齢社会の移行に伴う糖尿病や心臓疾患、癌などの非感染病(NCD)の増加:タイは2023年に高齢社会となり、2033年までに超高齢社会になると予想

タイの高齢者人口と割合の推移、タイ医療機器産業の見通し 〜クルンシィ・リサーチのリポートより〜
「タイの高齢者人口と割合の推移」出所:Krungsri Research

(2)健康ツーリズム市場の継続的拡大:グローバル・ウェルネス・インスティチュートは健康ツーリズムの市場規模は2020年の4兆4000億ドルから、2025年には11兆3000億ドルまで増加すると予想しており、タイはこのトレンドに追随する。特にサービス手数料は同水準のサービス品質の国に比べ割安。国際的な医療施設評価認証機関であるJCIのランキングは世界5位でアジア1位

医療処置種別ごとの支出(左)、JCI認証を受けた医療機関数(右)タイ医療機器産業の見通し 〜クルンシィ・リサーチのリポートより〜
「医療処置種別ごとの支出(左)、JCI認証を受けた医療機関数(右)」出所:Krungsri Research

(3)コロナ流行後の世界的な予防薬やセルフケアへの関心の高まり

(4)病院などヘルスケア企業の投資拡大

(5)海外市場での経済成長見通しがタイの医療機器の輸出拡大に貢献

(6)タイを健康・医療ハブとし、2027年までに東南アジア諸国連合(ASEAN)の医療機器製造センターとするタイ政府の支援策:①医薬品、医療ハブは東部経済回廊(EEC)計画の対象となる新Sカーブ産業に含まれる②バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済戦略の中で医療機器産業の重要性は高まっており、「精密医薬品」の利用や医療機器メーカーの能力向上を重視

(7)医療技術とイノベーションの発展はコロナ流行によって加速し、新たなブレークスルーが医療機器の付加価値向上に貢献:その主要技術は①人工知能(AI)②ロボット ③3D印刷 ④「5G」とバーチャル・リアリティー(VR)技術など

一方で、医療機器産業が直面する課題として、①タイの医療機器メーカーは使い捨て機器製造の中小企業が大半で、ハイテク製造・加工能力に限界 ②タイ企業は外国の技術や機械の輸入に依存 ③使い捨て製品は大きな環境問題を引き起こすため、医療廃棄物の管理が主な障害―と報告した。

TJRI編集部

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