「コロナ後」に挑む観光の変革 〜運輸総合研究所AIRO開設記念シンポジウム〜

「コロナ後」に挑む観光の変革 〜運輸総合研究所AIRO開設記念シンポジウム〜

公開日 2023.03.21

運輸・観光分野の政策シンクタンクとして1968年に設立された一般財団法人運輸総合研究所(JTTRI)は2月22日、アセアン・インド地域事務所(AIRO)の開設を記念するシンポジウムをバンコク市内のホテルで開催した。テーマは「コロナ後に挑む観光の変革~日タイ両国は質の高い観光に向けどのように取り組んでいくべきか」で、日タイ両国政府の観光政策当局者や民間専門家の講演、パネルディスカッションが行われた。

BCGモデルによる住民の幸福度向上

同シンポジウムではまず、宿利正史JTTRI会長が開会あいさつし、「ようやくコロナ後となった今こそ、観光が新たな高みを目指して第1歩を踏み出す好機」であり、今回のシンポジウムは「地球環境問題や地域住民の生活との調和にしっかりと対応できる持続可能な観光、責任ある観光の実現につながり『質の高い観光』を目指す」のが狙いだとその意義を強調。また、AIROについては、JTTRIの2カ所目の海外拠点として2021年3月にバンコクに開設されたと説明した。

開会あいさつに登壇した宿利正史JTTRI会長
開会あいさつに登壇した宿利正史JTTRI会長 = 2月22日、バンコク

続く来賓あいさつではタイのピパット・ラチャキットプラカーン観光・スポーツ相がビデオメッセージを寄せた。同相は「新型コロナウイルス流行により、集中的な発展や持続不可能な成長、質より量の重視などの問題点が浮き彫りになった。このため、2023年の観光の目標は、経済や社会、文化、環境などを統合した管理に焦点を合わせ、官民、特に地元の住民の参加を促進する必要がある。さらに、責任ある有意義な観光を重視し、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルを通じて、住民の幸福度を向上させたい」と訴えた。

また、日本側からは在タイ日本大使館の大場雄一次席公使が登壇。タイでは「鉄道や道路などの交通インフラの整備が急速に進められつつある」一方で、「バンコクを中心に慢性的な交通渋滞や頻発する交通事故、大気汚染など交通に起因するさまざまな問題を抱えている」と指摘。さらに新型コロナウイルス発生により傷付いた観光関連産業の復興も未だ途上だとし、AIROの運輸・観光に関する調査・研究活動はタイが抱える課題解決の一助になるだろうとの期待を表明した。また、シンポジウムのテーマである「質の高い観光」について、「日タイ両国にとって最重要政策の1つ」であり、昨年の11月の外交会談で合意した「日タイ戦略的経済連携5カ年計画」にも盛り込まれていると報告した。

タイは質が高く、持続可能な観光目指す

次に日タイ観光政策当局者による特別講演が行われた。タイ側からはモンコン・ウィモンラット観光スポーツ省次官補が「ポストパンデミック時代のタイ観光戦略」のタイトルでスピーチした。同次官補はコロナ前のタイ経済における観光産業の地位について、2019年時点で、国内総生産(GDP)のうち17.79%を観光産業が占めるとともに、観光関連産業の雇用者数は436万6392人で、全雇用者数の11.61%だったと指摘。そして、「タイを訪問した外国人旅行者数は2019年には3990万人と史上最多だったが、コロナの影響により2020年には670万人と前年比83.2%激減し、2021年には40万人まで落ち込んだ」ほか、観光支出は70.6%縮小、ホテルなどの観光産業GDPは38.3%減少したと報告した。

その上で、コロナ後の2023〜2027年のタイの観光ビジョンは『Rebuilding high value tourism industry with resilience, sustainability and inclusive growth』だと強調。同ビジョンには、「①観光の強じん化・リバランス ②質の高い観光を支援するインフラ整備などの接続性の向上 ③満足度と消費額の拡大のための旅行者重視の体験の提供 ④持続可能な観光の振興―の4つの目標がある」と強調した。

タイにおけるコロナ後の観光戦略
タイにおけるコロナ後の観光戦略

同次官補はさらに、こうしたビジョンと目標に基づく観光産業の高付加価値化に向けた具体的な取り組みとして、「技術やイノベーションを活用した観光商品やサービスの価値向上」「観光産業労働者のスキル向上」「タイのアイデンティティーの強調・促進」「観光分野での自然、環境資本の付加価値化」「観光産業における温室効果ガス排出の削減」などを挙げた。

日本人はアウトドア活動に関心

一方、日本側からは国土交通省の水嶋智・国土交通審議官が「ポストコロナにおける観光業周辺の変化と日本の観光政策」をテーマに講演、「日本とタイの観光交流の状況」、「新型コロナの影響」、「日本のこれからの観光政策の方向性」の3点について説明した。観光交流の状況については2005~2022年までのインバウンド旅行の受け入れについて、「タイは日本よりも早い段階からたくさんの外国人を受け入れてきた。日本もようやくタイを見習って、インバウンド受け入れ数を増やしてきた。アジアでは日本はタイから学ぶところが多いだろう」と指摘。その上で、「日本とタイの相互交流は2009年から2019年までの10年間で2.6倍に増えている。過去は日本人がタイを訪問することが圧倒的に多かったが、近年はタイ人の方が日本を訪れる数が急激に増えている」とし、2003年には日本人のタイ訪問がタイ人の日本訪問の13倍だったが、2019年にはその比率が1.3倍までに縮小していると報告した。

その後、水嶋審議官はコロナが観光産業に与えた影響に関するデータを改めて説明する一方で、コロナの影響は数字だけではなく旅行者の行動にも影響を与え、「農場施設やキャンプ場、貸別荘などのコロナのリスクを回避するアウトドア活動に関心が移った」ほか、持続可能な観光への関心を持つ旅行者が71%まで増えていることを示す民間調査結果を紹介した。

そして日本の観光政策の方向性については、①高付加価値で持続可能な観光地域づくりでとして、宿泊業者の再生、設備の改装、廃業した旅館の撤去などに取り組む ②インバウンド観光の回復戦略では、姫路城や国立公園などの特別な場所での特別な体験、新規イベントの開催に取り組み、旅行者数だけではなく消費額も重視、量から質を志向する ③国内交流の拡大では、日本の観光市場の8割を占める国内市場を回復させるために「全国旅行支援」という補助プログラムによる需要喚起、新たな観光需要の開拓としてワーケーション、ユニバーサルツーリズムなどを推進していくと訴えた。

観光客の地方分散化

その後、日タイの観光業界の専門家が参加するパネルディスカッションが行われた。このうち、タイ政府観光庁(TAT)の北部地域担当理事のパッタラアノン・ナ・チェンマイ氏は、タイ政府による地方分散戦略について「タイの観光収入のほとんどがバンコク都やチェンマイ県、スラタニ県サムイ島などの主要観光都市からもたらされている。このため観光客の地方分散化に向け、2015年から知名度の低いマイナーな都市への観光を促進している。ただ、自然や地域の特性に悪影響を与えないように、観光客を受け入れる能力を考慮する必要がある」との認識を示した。

マイナーな観光都市の振興
マイナーな観光都市の振興

その上で、パッタラアノン氏は「マイナー観光都市を振興した結果、全国の観光収入に占めるこれらの都市の観光収入のシェアは10%から約15%に増加した。2023年も観光客に新しい体験を提供することでマイナー観光都市の振興に力を入れていく」と強調。さらに、タイと日本の協力については「タイの特徴はサービスだ。そして、観光客を受け入れる長い経験を持っているので、これらを日本と共有することができる。また、タイ人と日本人の好みを知るためのインフルエンサー交流にも注目している。一方、日本から学びたいことは、観光の高付加価値化やさまざまな分野にも応用できる詳細な調査、持続可能な観光などだ」と説明した。

TJRI編集部

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