タイ・ホンダ 木村滋利社長インタビュー(下) 2輪の電動化の見通しと安全運転教育

タイ・ホンダ 木村滋利社長インタビュー(下) 2輪の電動化の見通しと安全運転教育

公開日 2024.03.12

タイ・ホンダの木村滋利社長インタビューの(下)では主に、2輪車の電動化の現状と見通し、そして特にタイなど東南アジアでは最も重要だと思われるバイクの安全運転教育の取り組みを紹介する。

>>木村社長インタビュー(上)

2輪車の電動化にはもう少し時間かかる

Q. 2輪車の電動化の現状は

木村社長:4輪車とはスピード感が全然違う。2023年の電動2輪の販売台数は全体市場で2万5000台でEVセグメントのシェアはまだ1.4%だ。今年も2万5000から3万台弱と予想している。タイのスタートアップ企業(メイク・トゥー・ウィン・ホールディング=MTW)が台湾の投資家と合弁で設立したデコ・グリーン・エナジー製造する「DECO」ブランドの電動バイクが、台数で圧倒的に増えている。

日系ではわれわれが唯一、スワップ(電池交換式)EVを販売している。現状、スワップバッテリーEVは主にデリバリーなどビジネスユースとしてご使用頂いているが、台数的には限定的だ。年率150~200%のペースで増えているのは、スワップではなくプラグイン(固定・充電式)で、バンコク市内というより少し郊外で学生さんの通学用バイクなど、1日の距離が大体決まっているような方々が使用している。タイ政府のEV振興策「EV3.0」の補助金1万8000バーツを活用し、プラグインを中心にお買い求めやすい価格になっている。

Q. なぜ2輪は4輪に比べてEVへの移行が遅いのか

木村社長:やはり所得層が4輪とは全く違い、2輪コミューターは低所得層が中心となる。その上では再販時の残存価値が非常に重要となり、電動バイクの残存価値がまだ分からない中ではお客様が安心して購入頂ける状況ではないと考える。また同様の理由で、ファイナンスローンを組む事も難しい状況だ。

4輪EVは中国が国策でやっているので非常に脅威だが、2輪EVの普及には商品だけでなく、インフラ整備含め、まだ少し時間が必要だと思っている。

中華系はインドネシアやベトナム含め、何度も二輪ガソリン車の市場に入ろうとしてきたが、品質や耐久性などでお客様の信頼を勝ち取ることで、8割以上のシェアを確保できてきた。

2輪EVでもバッテリーが課題

Q. 電動バイクはどこまで普及すると考えるか

木村社長:タイ政府の「30@30」ロードマップの中に2輪も入っている。われわれがその見通しを言うのは難しいが、2030年の時点では、3~5割ぐらいの市場になる可能性はあると思っている。われわれはそれに対する準備をしているところだ。

タイにおける1日における走行距離を調査しているが、全国平均では25キロ近辺で、1回の充電で、帰ってきて充電するという使い方で全然問題はない。ただ、モビリティーなので電池の劣化がどうなのか、インフラがどうなのかという要素を勘案した場合、どこまでいくのかというのはある。

スワップEVは、デリバリーなどのハードユースのお客様との親和性が高く、われわれの電動ビジネススクーター「BENLY(ベンリー)e」では、フードデリバリーなど1番走っている人は1日200キロ走っている。

ホンダの2輪EV、BENLYe
「電動ビジネススクーター BENLYe」出所:タイ・ホンダ

スワップEVの拡大は、同時に充電ステーションでのバッテリー交換頻度が上がるため、ステーションのロケーションや交換バッテリーの必要台数をモニタリングしながら進め、お客様に不満のないサービスを提供する必要がある。

社内での安全運転活動を外部にも展開へ

Q. タイのバイクや車の運転マナー、交通事故の多さなどをどう考えるか。今後変わってくることはあるか。ホンダもいろいろ安全運転教育をやっていると聞いている

木村社長:私は変わると思っている。皆、バイクの運転技術は非常に高くて、自分は安全だと思って運転している。しかし、自分が安全だと思っていても、他の人からは危ない、迷惑だと思われていることも考えなければいけない。

四半期に1回、ホンダグループ内で従業員の安全運転の取り組みについて議論し、効果的な施策の共有などを実施している。タイは典型的な「2輪、4輪の混合交通社会」だ。本社と連携し、先進的な交通安全対策にタイでも取り組もうとしている。20年以上前、A.P.ホンダのころから安全教育センターをタイ国内4カ所で運営してきたが、この体制の延長ではもうだめで、社会でいくら啓蒙活動をやっても効果が限定的だと考えて、まずはわれわれの全社員の間で「Zero Accident」を実現させる目標を立て、活動を実施している。

ホンダの掲げるROAD TO ZERO ACCIDENTプロジェクト
「ホンダの掲げるROAD TO ZERO ACCIDENT」出所:タイ・ホンダ

ホンダ本社の三部敏宏社長は2022年4月にグローバルでホンダのモビリティーがかかわる死亡事故を2030年に半減、2050年にゼロにするとの目標を掲げた。そこでタイ・ホンダでも過去2年、会社の中でどれだけ減らせるかということで、インセンティブの導入やルールを厳しくするなどの取り組みを実施した結果、事故件数を大幅に減らすことができた。これを今度、グループ内、サプライヤー様に水平展開していくことで、交通事故者数を減らす活動を、タイ政府と連携して草の根的にやっていく。

職業訓練学校とは出張安全運転教育などの連携も長年やってきた。こうした教育活動と、われわれが社内でやった活動を他社などに広げていく活動を両輪でやっていく。また、今後は政府と連携した最新技術を使った先進的な交通安全対策を推進していくことを検討中だ。

ホンダは2輪をこれだけ販売している責務として長年取り組んできたことが、プラユット前首相から「国の宝」として表彰された。こうした安全対策を1989年からやってきたが、今後は数値的な実効性の向上に拘っていきたい。

ホンダ安全運転センターでの講習の様子
「ホンダ安全運転センターでの講習の様子」出所:タイ・ホンダ

タイ社会の底力は強い

Q. タイのモビリティー社会はどうなっていくと思うか

木村社長:タイの人口当たりの2輪の普及率は非常に高く、160万~170万台で飽和状態になったままこの水準を維持している。つまり高級車を持っていても、2輪も持っている人はいて、全部が4輪に移っていくわけではない。2輪に対して堅実な需要が急激に減っていくことはないとみている。ただ2輪も電動化されることは必至で、モビリティー全体の構造が変わっていく可能性はある。だが当面はバンコクの渋滞環境が変わらず、人の移動の欲求を満たすために2輪への需要はまだ堅調だろう。また地方でも1人でDoor to Doorで移動する手段としては2輪の利便性は高い。また、1人の移動はエネルギー効率的には日本の軽自動車とも比べても2輪の方が良い。

Q. ベトナムやインドネシアにも駐在されたと伺っているが、タイを含めた3カ国の違いや今後の可能性についてどう考えているか

木村社長:タイは日本と同じように人口が減少傾向で、まだまだ人口ボーナスがあるベトナム、インドネシアとでは社会構造が違う。ただ、タイのインフラや社会の成熟度といった底力は強いと思っている。例えばコロナ期間中でも、タイ政府は経済を止めない前提でコロナ対策の施策を打ち出していたので、製造拠点としてはコロナ終息後の増産などをにらんだリーズナブルな対応ができたと思う。やはりタイ政府は、タイが東南アジアの製造業の拠点、輸出拠点であるという立ち位置を理解しているし、タイ人の感覚も日本人に最も近いという意味合いでとても働きやすかった。

比亜迪(BYD)など中華系の自動車メーカーも皆、タイに組立工場を作りつつある。コストや人口の多さを考えればインドネシアやベトナムで生産拠点を集中させた方がいいはずだが、サプライチェーンの基盤、地政学リスクやロケーションを含めてタイの優位性を見出していると認識している。

TJRI編集部

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