国や企業を超えた協力で社会課題解決を加速 〜 NEDOバンコク事務所、川村所長インタビュー

国や企業を超えた協力で社会課題解決を加速 〜 NEDOバンコク事務所、川村所長インタビュー

公開日 2024.01.22

アジア各国が脱炭素化に向けたエネルギートランジションを進める枠組みとして、日本は官民一体となって協力するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を立ち上げ、昨年閣僚会合が開催されました。「日タイ経済共創ビジョン」インタビューシリーズの第6回は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)バンコク事務所の川村寛範所長にこれまでのタイでのNEDOの活動とタイの課題解決に向けたこれからの日タイの共創のあり方について話をうかがいました。
<聞き手=mediator ガンタトーン>
国や企業を超えた協力で社会課題解決を加速 〜 NEDOバンコク事務所、川村所長インタビュー
NEDOバンコク事務所、川村所長(左)とmediator ガンタトーンCEO(右)

世の中のトレンドが変わり、NEDOの活動に追い風

Q. ASEANの中核国であるタイにNEDOの所長として赴任した感想は

川村所長:タイへの赴任は、今回が2回目ですが、前回赴任した約15年前と比べ、カーボンニュートラルに対するトレンドが大きく変化したことで、NEDOが各企業と進めているプロジェクトも多くなり、推進しやすくなったと感じています。

当時も再生可能エネルギー、省エネルギー技術などカーボンニュートラルにつながる技術実証プロジェクトを行なっていました。中長期的にはタイ国にとって有益であり、企業にとっても将来のビジネス展開を後押しする重要なものであるにも関わらず、各社内での判断がさまざまでNEDOの国際実証事業へ参加し、投資判断するのは難しいという雰囲気が一部にありました。しかし、「2050年カーボンニュートラル」宣言をきっかけに、その実現に向けてカーボンクレジット(温室効果ガスの排出削減量を排出権としてクレジット化して売買する仕組み)制度が導入され、企業自らがカーボンニュートラルに向けた達成目標などを掲げるなど、企業の反応も変わってきました。

AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)構想もその一つ。日本企業が強みを持つ脱炭素技術を活かしてASEAN各国と協力して課題を解決し、経済発展を目指すという方針を国が掲げていることもあり、エネルギーや環境問題を解決する技術の開発・実証・導入・普及をメインとして支援しているわれわれに対しても、期待の声が大きくなっていると感じます。

各国のカーボンニュートラルに向けた取り組みへの協力と日本企業が考えるそれぞれのビジネス展開に向けたサポートの両面からNEDOがどのような支援ができるのかを考え、できるところから協力を進めているところです。

Q. 1回目の赴任ではどのようなプロジェクトに関わっていましたか

川村所長:環境対応型高効率アーク炉や高性能工業炉の導入、民生ビルへの省エネ機器の導入など省エネルギーに関する技術開発のプロジェクトがたくさんありました。これらはCO2削減にもつながる技術ですが、当時はまだ、カーボンニュートラルに向けた取り組みという概念はあまり際だっておらず、環境面というよりはコスト削減につながるビジネス目線でのプロジェクトが主流でした。

また、近年タイで注目されている農業残さなどの未利用バイオマスの利用技術に関するプロジェクトも行っていました。当時は技術的な課題もあり、残念ながらビジネスにつながらない部分もありましたが、その時の技術やノウハウが今活かされている例などもあり、現在タイで複数のプロジェクトで成果が出はじめています。海外での実証事業では技術のみならず、さまざまな環境要因が複雑に絡むため、全てのプロジェクトが予定どおりに進むことは難しいですが、当時うまくいかなかったものも今につながっており、意味あるプロジェクトであったと実感しています。

国や企業を超えた協力で社会課題解決を加速 〜 NEDOバンコク事務所、川村所長インタビュー

すり合わせ技術こそ日本の強み

Q. 日本は効率性や収益性より長期目線で課題解決につながる投資を行っている印象だが、技術開発における日本の強みと弱みは

川村所長:各社の事業戦略もあり一概に言えることではないですし、どのような分野なのかによっても大きく異なると思いますが、日本の技術開発の強みという点では依然として大きなアドバンテージがあると思っています。ただし、技術があってもそれだけでは意味がなく、実際に人々の生活が便利で快適になるような形で利用されて初めて評価されるということは言うまでもありません。

よく例として言われますが、「iPhoneのコンセプトを構想することはできなかったが、日本の技術がないとiPhoneは作れなかった」と。個別の分野で日本企業が強く確固たる位置づけにあることは素晴らしいことであり、さまざまな商品やサービスを支える技術が重要なことはもちろんですが、どのような商品やサービスが求められているのかを想像することができれば、最終製品の形でも日本発のものが実現できていたかもしれません。この構想力やクリエイティブな発想の観点で言えば、ゲーム・漫画・アニメ・デザインなど多くの分野で他国と比べても際だった強みを持っていると言えます。しかし、個々の技術の強みはあるにも関わらず、最終製品やサービスとして利用者に提供する形に構想する部分で実力を発揮できていない面があるのではないかと感じます。

Q. 日本がグローバルで実力を発揮するために必要なことは

川村所長:昨今、社会課題として挙げられるカーボンニュートラル社会の実現にしても、各国で技術開発が日々進められていますが、カーボンリサイクル技術などの多くは日本に強みがあります。しかし技術があるだけでは解決しません。これらの技術を組み合わせ、どのように実現していくかを構想し、共に解決できるパートナーと連携してあるべき像を描き実行していくことが必要となります。重要なことは技術があれば構想したものを実現できる可能性はありますが、逆に技術がなく構想しても夢想にしかなりません。そのような意味でも、技術を持つ日本は本質的にはさまざまな社会課題解決のポテンシャルは持っていると思っています。ただ、それがまだ活かされていないと感じます。

これらの課題の解決にはコスト面で依然としてハードルが高いのは事実ですが、タイをはじめASEAN各国を対象とした国の支援プログラムも増えていますので、これらも利用していただきながら共に進めて行ければと思います。

日本の弱みとして判断が遅いと言われることがありますが、一旦判断すれば最も信頼できるパートナーと言われているのも事実です。現地への権限移譲などにより早期判断ができるように継続して改善は必要ですが、パートナーとしての信頼感が高いことは何よりの強みでもあります。この強みも活かしつつ積極的なチャレンジが今まで以上に求められていると思います。

また、工場などへの省エネ技術の導入は、完成品を導入して終わりではなく、現状分析を緻密に行い導入後もデータを取得して微調整が必要となる世界であり、いわゆるすり合わせ技術が必要となってきます。このすり合わせの技術こそ日本に強みがあると言えます。この作業は緻密かつ手間がかかるため、他国のエンジニアは苦手とするところですが、技術の導入には非常に重要な点であり、日本の強みとして今後も活かしていくべきでしょう。

国や企業を超えた協力で社会課題解決を加速 〜 NEDOバンコク事務所、川村所長インタビュー

日本の技術をビジネス展開につなげるサポーター

Q. NEDOとして今後タイでどのような役割や貢献ができるか

川村所長:エネルギー問題の解決やカーボンニュートラルなどグローバルな課題に対する解決は一つの企業や国だけで簡単にできるものではありません。タイの課題解決を実現するには、日本だけでなく、他国とも協力して、各国(各社)の強みを組み合わせていくことが重要です。NEDOはエネルギー・産業技術分野において各国の政府や企業と連携し、日本企業が新たなビジネス展開につなげることができるよう一つでも多くのキッカケを作るためのサポートを行っています。

また、各国が抱える社会課題に対して日本が技術という強みを持ってどのような形で貢献できるかを考え、技術を持つ企業の皆さんに声をかけ、課題解決に向けた旗振り役になれるよう努めていきたいと思っています。

NEDOバンコク事務所では皆様との意見交換やご相談を歓迎しています。支援制度やエネルギー関連情報などについてご相談がありましたら連絡いただければ幸いです。

Q. 最後に読者にメッセージを

川村所長:日本国内外問わず、NEDOはいろいろな業種・分野の皆さんと接する機会がありますので、さまざまな話を聞くことができる立場にあります。例えば、バイオ、IoT、ロボットなど一見関連しない分野でも組み合わせによる相乗効果が大きいケースがあります。それぞれ異なる業界で働く人たちの間ではあまり話す機会がなく、普通にしていたら両者が巡り会うことはほとんどありません。われわれは、さまざまな分野の皆さんとの接点があるため、相互に紹介することもでき、そこから実際に協業につながる事例もあります。NEDOは営利企業ではないからこそ民間企業のいろいろな方々と話ができ、情報が集まる場となります。

異業種の交流や連携は、今後はさらに重要になると思いますし、想定外の技術の組み合わせで成果が得られることもあると思います。皆さんのネットワーク作りや協業のきっかけにもNEDOを活用いただければ幸いです。

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TJRI編集部

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