水素産業発展への試行錯誤

水素産業発展への試行錯誤

公開日 2023.07.18

英エコノミスト誌7月8日号はビジネス面で、「水素の再編(shakeout)から発展可能な産業が生まれるか」というタイトルで水素関連産業の可能性を論じている。同記事はまず「水素は宇宙で最も豊富な元素であり、クリーン燃料の大きな資源だ。・・・世界の一部がより気候変動に真剣に向き合う中で、水素は世界の脱炭素の取り組みにおける大きな存在として浮上している。世界中で1000を上回るプロジェクトが進行中で、過去1年だけでも350以上の発表があった。2030年までに約3200億ドル相当の投資につながる可能性がある」と概観する。

その上で、ベンチャーキャピタリストやバイアウト大手は昨年、水素ベンチャーへ約80億ドルを投資し、2020年の20億ドル超から大幅に増やしたという。そして、水に電流を流して水素と酸素に分離する電解槽の先駆メーカーであるティッセンクルップ・ニューセラはサウジアラビアの政府系ファンドなどの後押しで7月7日に新規株式公開(IPO)を実施したと紹介。こうした熱狂は、2000年代にこうしたプロジェクトに投資して失敗した「水素バブル」に類似しているとの懸念を誘っており、その兆候はあると指摘する。

一方、国際エネルギー機関(IEA)によると、2050年までに二酸化炭素(CO2)排出ネットゼロを達成するためには、水素への投資額をこれまで発表された3200億ドルを上回る3800億ドルの新規投資が必要になるという。そして、約20年前の水素バブルの時には水素自動車が中心だったが、今回はセメントや長距離輸送など電動化だけでは脱炭素化が難しい排出量の多い産業が焦点になっているという。

同記事によると、クリーン水素産業の発展に相当な時間がかかっているのは、水素は自然界には純粋な形ではほとんど存在しない元素というその特性にも由来するという。そして、水素産業をクリーン化するためには、炭化水素から水素を作る際に発生するいかなる炭素も吸収し、貯蔵しなければならないとした上で、これがうまくできた場合、この「ブルー水素」はCO2の排出を劇的に減らせると指摘。さらに環境面でより優れた代替案は、再生可能エネルギー(グリーン水素)や原子力発電(ピンク水素)で作った電気を使って水を水素と酸素に分解する方法だと強調した。

また水素産業の発展のもう1つの阻害要因がコスト高であり、世界的な金利上昇でコスト高は加速されているとも指摘する。米マッキンゼーの水素コンサルタントは、もし水素産業の急成長を望むなら2030年までに補助金なしの製造コストを現在の1キロ当たり4.50~7ドルから天然ガスとも競合できる2.50~3.50ドルに引き下げなければならないと分析する。さらにブルームバーグNEFは、クリーン水素の普及には、肥料向けのアンモニアや、化学産業や石油精製におけるメタノールなど、既にダーティーな水素を利用している産業向けの供給から始める必要があるとの見方を示している。

同記事は、燃料電池車や家庭用暖房用途など「袋小路的」な水素の利用方法に多額の資金を投入してしまうリスクはまだあるとした上で、米ワシントンの水素専門家の「より大きな目的につながらないビジネスモデルが資金調達に成功する可能性があることを心配している」とのコメントを紹介。そして、ドイツ政府はノルウェーの天然ガスを原料とするブルー水素のパイプラインによる輸入を認める見込みだとし、「日の出のように時間がかかるものの、これが水素の真の夜明けだ」とのボストン・コンサルティング・グループのコメントを引用して記事を締めくくっている。水素産業の発展にはまだまだ試行錯誤が続くようだ。

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TJRI編集部

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