タイで取り組む本気の育成(基礎編)

タイで取り組む本気の育成(基礎編)

公開日 2023.05.05

仕事環境の違いを受け容れよう

この記事をお読み頂いている皆さんは、日本生まれの日本育ち、日本で就職され、転職はされているかもしれませんが、いずれにしても日本企業のタイ拠点に出向者として赴任なさっていることを前提にお話を進めて参ります。かくいう私自身もこの条件に当てはまっています。

まずは我々が社会人として育ってきた環境を確認します。多くの方々が4月1日の入社、本社での集合研修があった方も多いでしょう。その後、配属先が発令され、各部署・赴任地へ着任され、何度かの異動を経験されながらも業務遂行に邁進されてきたかと思います。そして今、タイへの赴任という大転換点があり、その最中にあって様々なミッションをお持ちで、やはり業務遂行に邁進なさっている事と思います。

タイは仏教国でもあり、親日国ともいえ、日本人居住者も多く、海外赴任地における就労環境のハードルの最も低い国の一つとして認知されていることもあって、タイへの赴任が大転換点だとは認識されません。しかしながら一方で、ASEAN諸国の複数の国へ赴任経験のある人たちの中では、「タイでの育成が最も難しい」と言われていることも事実です。

ここでは、この後お話する“育成”に大きく関係する大転換点の理解が欠かせません。というのは、多くの方々が日本人による組織で日本という国で事業を行われていた環境から、日本人・タイ人による混合組織でタイという国で事業を行うという大きな環境の変化を伴っているからです。

①筆頭に上げられることは、言語の違いがあり、文化・価値観の違いがある国籍の異なる人たちとの業務遂行になることです。育成への影響必至です。

②また、この組織のおかれた環境が大きく異なります。かつて一人当たりGDPで世界トップ付近にあったものの徐々に順位を下げ、デフレ下で30年を経た経済環境と、一人当たりGDPは日本の約1/5ながら成長基調の中でインフレが続く経済環境では、発展段階と成長の傾きが大きく異なります。さらに、タイでは転職市場は確立しており、新卒一括採用、終身雇用は無く、年功序列では優秀な人材が確保できない等、これらに顕著に表れるように労働市場の環境も大きく異なります。従って、適した人事制度が日本国内のそれとは大きく異なります。

③そして、皆さんお一人お一人の役割が縦方向にも横方向にも拡大されている事が上げられます。つまり、ポジションが1、2ランク上がり、責任を持つ業務の範囲が広がり、結果として管掌の社員数が明らかに増えています。

先に述べた大転換点の中でも、特に大きく育成に関係する上位3つの項目を上げました。これらがあるから、育成を難しくしていることは事実ですが、これらを言い訳にしていても前進が望めません。育成が継続性を持って進んでいる日系企業があることを考えると、つまりこれらは言い訳にはならない、という事になります。

この大転換点により育成に大きく影響する上記因子を受け容れ、克服していくスタンスを持つことが、育成を前進させるための大前提になります。

育成する側に何が求められるのか

我々育成する側、もしくは育成が進む組織を作る側がどうあるべきかについて考えます。皆さんはどのくらい育成対象者の事を知っているでしょうか。彼らには彼らの理屈があり、たとえ理屈が無くともストーリーがあり、今の会社で仕事をしています。当然成長意欲もあります。

よく「マネージャー上級職クラスになると双六の“上がり”のような状態になり、それ以上の成長意欲がなくなってしまう」と言われます。この話は別の機会に譲り、今回はスタッフ、エンジニア層から中堅マネージャー層までを広く対象者として話を進めて行きます。

この層の人達は成長意欲旺盛です。彼らが描くキャリアパスを上司である皆さんが設定、把握されているでしょうか。成長の一段階先にある姿を共有していることが大切で、成長に対する動機づけをより確実にします。成長に対する動機づけが無い、もしくは会社の期待とは全く違う方向に向いている社員に対して、育成のゴリ押しにならないように気を付けたいところです。

つまり、会社の期待する成長に沿った動機づけがあってこそ、育成が成立し前進します。そのためにもキャリアパスの設定と共有が大切なことは勿論、より多くの社員の成長を視野にいれると人事制度で設定された評価制度を理解し育成に活用していくことが求められます。

育成対象の理解、育成対象者が従う人事制度の理解、目標とするキャリアパスの設定・共有について述べました。他方、育成する側に必要なスキルを上げれば、異文化に対する適応力をはじめとして、コミュニケーションコーチングティーチングのスキル、さらにはロジカルシンキング共感力等が必須のスキルセットに挙げられます。

コア人材を育てる

皆さんが社員一人一人を育成していくには、対象人数の限界があります。そのため、右腕・左腕となるコア人材が育成の対象になります。皆さんがコア人材を直接育成し、そのコア人材が更に傘下の人材を育成していく流れです。

では、育成するにあたって何をすればいいのか、何から手を付ければいいのでしょうか。それはズバリ、計画を中心に据えることです。ここでいう計画とはプランニングスケジューリングの両方を含めています。また、計画で扱う題材が業務計画だけとは限りません。社内での進路の計画、つまりキャリアパスであったり、社内で企画や検討するすべての事がその題材となり得ます。

問題解決に標準のステップがあるように、計画にも標準のステップがあります。この標準のステップを育成の場として活用するのです。なぜなら、育成を外出ししてしまうと、日常の会社生活や業務とは別事になってしまったり、新たにオン(付加)されたものという位置づけになってしまうため、実践にはつながらない事態が多発してしまうからです。前提となる知識の共有のためにOff-JTは有効で必要ですが、実践力を含めた育成となるとOJTが中心になります。このOJTをいかに系統立てて自然に日常の中に組み込めるかがカギとなります。

人材育成が進む組織を育てる

コア人材を育成しながら、そのコア人材がさらに部下を育成できるよう、育成の進む組織を作り上げていかねばなりません。なぜなら、育成の続かない企業では、育成に熱心な日本人駐在員がいる間だけ育成が進み、その人が帰任してしまった途端に停滞してしまうという属人化の典型的な状態になっているからです。そのため、日本人赴任者のタイプによらず育成が進んでいく組織を作り上げていくことが求められます。もちろん、日本人赴任者は育成に熱心か否かによらず育成に関わる必要がありますが、その関わり方に共通の型を持たせることで、属人化を低減させていくことができます。さらに、仕事の成功や失敗を経験値として蓄積し教訓化できる習慣が醸成されてくると、継続して成長できる人と組織に昇華していくのです。

タイでの人材マネージメントにお悩みの方へのオススメ講座

2023年6月ビジネスコース Day4-PM|6/23[金] 経営課題としての人材育成

経営課題としての育成について考える

日時:2023年6月23日(金)14:00~18:00(タイ時間)

会場:Mediator内セミナールーム(またはMajor Tower Thonglor 会議室)

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JMAC (Thailand) Co., Ltd. 社長、シニアコンサルタント、全能連認定 マスター・マネジメント・コンサルタント

勝田 博明 氏

エンジニア職を経て、2001年、(株)日本能率協会コンサルティングに入社。組織開発として「知的生産性の向上と組織風土の活性化」の支援に一貫して携わる。主な専門領域は、日系企業の海外拠点における組織と人の知的生産性向上、組織風土の活性化、現地化促進、人事制度改革・運用支援、開発期間短縮など。
2010年から現職。タイのみならずシンガポール、マレーシア、フィリピン、ベトナムなどで生産性向上、仕組みづくり、風土醸成、実行習慣化などの支援を展開している。タイ国内での組織開発対象者は日本人・タイ人合計実人数で2000名を超える。

JMAC (Thailand) Co., Ltd.

Website : https://jmac.co.th/jp/

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