東南アジアは中・米・日をどう見ているか

東南アジアは中・米・日をどう見ているか

公開日 2023.04.11

今年は日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)友好協力50周年ということで、日本の産業界の間でも改めてASEANに注目する動きもある。しかし、ASEANといっても、共通通貨を持つ欧州連合(EU)のような一体感はなく、特にミャンマー問題、ロシア・ウクライナ戦争などでは足並みの乱れも目立つ。ただそれでも日系企業の間では、グローバル展開で日本として強みを発揮できるのはやはり、東南アジア、ASEANだとの見方は揺らいでいない。そうした中で、ISEAS-YUSOF ISHAK INSTITUTEによる毎年恒例のASEAN市民に対する世論調査の最新版「The State of Southeast Asia 2023 Survey Report」が発表された。その中ではASEANの人々が中国、米国、そして日本をどのようにみているかが分かり、興味深い。

失業・景気後退がトップ課題

同調査の対象は、ASEAN加盟10カ国の1308人で、職業別では①学界・シンクタンク・研究所②ビジネス・金融③政府④市民社会・NGO・メディア⑤地域・国際機関-で、調査期間は2022年11月14日~2023年1月6日。回答者の年齢層では、21~35歳が40.4%と最も多く、36~45歳が26.7%、46~60歳が18.9%などと続く。

第1の設問では「東南アジアが直面する課題のトップ3」は何かを聞いており、ASEAN全体では「失業と景気後退」が59.5%(2022年は49.8%で2位)でトップだった。「気候変動や天候異変の増加」が57.1%(同37.3%で3位)が2位、「軍事的緊張の高まり」と「社会経済ギャップの拡大と所得不均衡」がともに41.9%で3位だった。2022年のトップは「Covid-19の健康リスク」で、75.4%を占めたが、今年はこの回答がなくなり、新たに「米・中デカップリング」が加わり、36.2%で5位だった。

一方、ミャンマー問題に関して2021年4月にASEAN首脳会議が合意したASEANの特使をミャンマーに派遣して国内対話を促すなどの5項目に関する質問では、「5項目合意には中立の立場」との回答が31.4%とトップで、「5項目合意は軍が設置した最高意思決定機関である国家統治評議会は妥協せず機能しない」との回答が21.7%、「5項目合意は複雑な問題対処では根本的に間違っている」が19.6%と続き、否定的な意見が多かった。

また、「ロシアのウクライナ侵攻」については、「憂慮している」が47.9%、「若干懸念している」が35%、「中立」が12.3%で、「その東南アジアへの影響は」との設問では、「エネルギー・食品価格の上昇が、経済を悪化させる」が58.3%とトップで、「ルールベースの秩序への信頼を損ね、国家主権に違反」が25.9%と続いた。

こうしたミャンマー軍事政権やロシアのウクライナ侵攻など政治・外交問題に対する設問では加盟各国で回答にかなりばらつきが目立つ印象だ。

最も影響力ある経済大国は中国

同リポートは<セクションⅢ>で、最も注目されるポイントである、大国が東南アジアに与える影響を各国市民がどう見ているかを聞いている。東南アジアでもっとも影響のある経済大国はとの設問では、トップは当然、中国で59.9%に達するが、2022年の76.7%からは大幅低下している。続いてASEANが15%(2022年7.6%)、米国は10.5%(同9.8%)、そして日本は4.6%(2.6%)と4位だが、中国との差は極めて大きい。ちなみに、タイ人に限定しても今年は、日本は3.5%とASEAN平均を下回った。同様の質問を政治面に限定した質問では、相対的に中国の比率が低下、米国が上昇している。

そして、ASEANは東南アジアでの影響力とリーダーシップで米中が競合する中でどう対応すべきかとの質問では、①両大国からの圧力をかわすために、レジリエンスと団結力を強化する(45.5%)②中国、米国どちらの側にも組みしない立場を取り続ける(30.5%)③戦略的余地と選択肢を広げるために「Third Party」を模索する(18.1%)④中立の立場を維持するのは現実的ではなくどちらか一つの国を選択しなければならない(6.0%)-となった。

さらに「ASEANは未来のためにどちらかを選ばなければならないとすれば、それは中国なのか、米国なのか」というより踏み込んだ質問に対しては、中国との回答が38.9%(2022年43%)、米国との回答が61.1%(同57.0%)と、米国に傾いている印象だ。そして先の質問にもあった、米中対立のヘッジとしてASEANが頼るべき戦略的なThird Party(パートナー)はとの質問では、EUが42.9%(2022年40.2%)とトップで、日本が26.6%(同29.2%)、インドが11.3%(同5.1%)、オーストラリアが9.3%(同10.3%)と続き、インドの上昇が目立った。

信頼感では日・米・欧の順

同リポートは<セクションⅤ>で、米中などの大国が、「世界の平和、安全、繁栄、当地に貢献するために正しいことをするか」という信頼感を聞いている。結果は、中国に対しては「大変信頼している/少し信頼している」が29.5%に対し、「信頼していない/ほとんど信頼していない」が49.8%に達している。インドもそれぞれ、44.2%、25.7%と信頼感が低い一方、EUはそれぞれ51.0%、29.1%、日本はそれぞれ54.5%、25.5%、米国もそれぞれ54.2%、26.1%と日・米・欧の順でASEANからの信頼感が高いことが分かる。ただ、2019年に始まったこの調査リポートをウォッチしている国士舘大学の助川成也教授は、国別に2019年からの調査結果の推移をみると、「ミャンマー、カンボジアでの日本への信頼感が急降下している」と指摘している。

同リポートは最後の<セクションⅥ>でソフトパワーの調査結果も報告している。ASEANの学生が高等教育の留学先に選ぶ国のランキングは、①米国25.2%②英国15.9%③オーストラリア14.6%④EU加盟国13.4%⑤他のASEAN加盟国9.4%、そして日本は9.2%で、ようやく6位だ。一方で、ASEANの人々が訪問したい国ランキングでは、日本が27.3%で断トツトップ。以下、EU15.3%、他のASEAN加盟国14.5%、米国9.7%、ニュージーランド8.1%、オーストラリア8.0%、韓国7.2%と続いている。この二つの回答結果の違いは示唆に富んでいる。

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TJRI Editor-in-Chief

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

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