EV、ランドブリッジを中国に頼るリスクは ~「鬼城」「EV墓場」と中国の未来~

EV、ランドブリッジを中国に頼るリスクは ~「鬼城」「EV墓場」と中国の未来~

公開日 2024.02.05

2024年に入り、予想通り中国経済の動向が世界経済の大きな波乱要因になるとの見方が広がっている。中国国家統計局が1月17日に発表した2023年の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質ベースで前年比5.2%増となり、政府目標の5%前後を達成したとされたが、この数字に対する疑問がユーチューブやインターネット上で噴出している。そもそも中国政府の統計は国際金融市場では信用されていない。

一方、香港の高等法院は1月29日、経営再建中の中国不動産開発大手、中国恒大集団に対し清算命令を出した。同社の資産の大半は中国本土にあるため、その破綻処理は欧米ルールとはならないだろうが、中国の不動産バブル崩壊がようやく待ったなしになってきたことを印象付けた。そうした中でタイ政府は、中国の電気自動車(EV)メーカー進出ラッシュを大歓迎しているが、バランス感覚の優れたタイ人が中国リスクをどこまで冷静に見極めているのだろうか。

ランドブリッジ、観光は中国期待

2月2日付バンコク・ポストは1面で2本の中国関係の記事を掲載している。1本は、タイ南部チュンポンとラノーンを結ぶ陸上輸送ルート「ランドブリッジ」プロジェクトに関するもので、スリヤ運輸相が1日、運輸省が来月、中国で、ランドブリッジの投資家説明会を行うことを明らかにしたという。同相によると、最近訪タイした中国の王毅外相が関心を示したためで、運輸省は来週にも在タイ中国大使館に同プロジェクトに関するリポートを提出し、リポートは投資家説明会前に中国政府に送付される見込みという。

もう1本の記事は、外国人旅行者数の見通しに関するもので、タイ空港会社(AOT)のキラティ社長は、同社が管理する主要6空港の春節(旧正月)期間中(2月5~14日)の利用客数は前年比20%増の352万3929人になるとの予想を明らかにした。スリヤ運輸相によると、タイと中国間で合意した相互ビザ免除措置が3月1日から発効することを受けて、今年の訪タイ中国人旅行者数は前年比2倍超の800万人に達するという。

EVなど中国からの投資は続く

さらに1月22日付のバンコク・ポスト(ビジネス1面)は、「タイの輸出と観光の見通しは中国の見通しと極めて密接に関係している」という副題の詳細な分析記事を掲載している。同記事は、昨年の中国からの旅行者数は350万人と当初予想よりも大幅に低い水準となり、タイ観光産業は大いに失望していると話を始める。その上で、「タイの輸出、投資、観光の主要けん引役として、中国はタイ経済にポジティブ、ネガティブ両方の影響を与える見込みだ」と強調。その上で、この3分野の今年の見通しについて、タイ経済界幹部やエコノミストらの見方を紹介している。

このうちタイ工業連盟(FTI)のクリアンクライ会長は、低迷する中国経済は中国からの旅行者数は抑えられ、タイ国内の関連産業に影響を与えるだろうとする一方、中国の特にEVなどの一部産業による海外投資は拡大し続けるとし、「(中国の)投資は景気減速とは分離されている」と強調。多くの中国企業はその市場規模、潜在成長力から、新規市場として東南アジアでの拡大を求めており、米中貿易紛争を回避するために生産拠点を移転する企業もあるとの見方を示した。

また、サイアム・コマーシャル銀行(SCB)のソーンチャイ上級執行副社長は、「中国の住宅市場の活動は縮小が続くだろうが、中国当局が特に大都市で“社会的”住宅の供給を増やすことで不動産価格の下落を管理しようとする中で、過去数年に比べれば縮小ペースは鈍化するだろう」と指摘。ただ、中国人民銀行による金融緩和は効果が薄く、消費支援の具体策に欠く中で、2024年下半期の国内総生産(GDP)伸び率は低調なものになるだろうとの見通しを示した。

中国GDP、ドル建てでは既にマイナスに

一方、英エコノミスト誌1月20日号は金融経済面で「中国の人口は縮小し、経済も勢いを失いつつある」というタイトルの記事で中国経済の中長期的見通しを論じている。同記事は、2023年の死亡者数が1110万人と前年の1040万人を上回る一方、出生者数は減少し、中国の人口は昨年、200万人以上減少し、60歳以上の高齢者は人口の5分の1以上の2億9700万人になったと高齢化の進行を指摘。一方で、中国は若者の雇用に苦労しており、昨年6月に若者の失業率が21%を上回ったあと、当局はこの失業率の発表を突然取りやめたと、このニュースレターでも既報の話を改めて紹介する。

同記事はさらに、中国の李強首相が1月16日に、スイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で、2023年の中国の経済成長率は5.2%程度になり、政府目標の「5%前後」を達成できたとアピールしたものの、「この見通しは信頼できない」と強調。特に物価について、食品・燃料だけでなく自動車価格も4%下落するなどデフレ傾向が強まっているため、こうした価格変動調整前の中国の名目GDPは4.6%にとどまったと指摘。さらに通貨人民元の下落に伴い、ドル建てのGDPはマイナスに陥っているとの分析を示した。

鄧小平と習近平の違い

「1979年に鄧小平は中国の南部沿岸の地点を地図上で丸印を付け、『資本主義の実験場』として深圳を創出した。その40年後、習近平は時代を象徴する都市を造る自らの野心を明らかにした。今回は北京の近郊の雄安新区であり、混雑する北京の放出弁となるべく開発された輝けるハイテク都市、『人材開発の歴史におけるモデル都市』と宣伝されている」

1月20日付バンコク・ポストは「習近平のドリーム・プロジェクトは三峡ダムの2倍以上のコストをかけた後、空っぽのままだ」というタイトルの米ブルームバーグ通信による「雄安新区」の現地ルポを転載している。同同地区の開発にこれまでに6100億元(850億ドル)を投資してきたという。以前はトウモロコシ畑だったところに鉄道駅やオフィスビル、住宅、五つ星ホテル、学校、病院が建設されたが、「ただ一つ欠いているのは住民だ」と皮肉っている。

そして深圳を驚異的な成長に導いた鄧小平氏の自由放任的アプローチとは異なり、習氏は非常に几帳面なアプローチを採用しているという。具体的には、習氏の「住宅は住むためのもので投機対象ではない」という信念に基づき、雄安新区は投機を防ぐために住宅価格を厳しく管理し、昨年まだ建設していない住宅の販売を禁止した。この事前販売モデルは中国の住宅バブルを加熱させたとされている。こうした習氏の認識自体は間違っていない。少なくとも中国の不動産バブルを生みだしたのは習氏ではなく、前政権以前だろう。ただ、習氏が推進した雄安新区については今後の状況を見守るしかない。

中国の「鬼城」と「EV墓場」

今年に入ってもユーチューブなどでは、雄安新区を含め中国各地のほとんど入居者がおらず、開発もストップした巨大住宅プロジェクト「鬼城」の動画が続々と配信されている。それは、電気自動車(EV)を大量調達して事業を開始した中国のカーシェア会社が経営破綻して、EVを大量放置しているという「EV墓場」の映像とともに、中国経済の実態を伝えている。記者としては現場で自分の目で確認しない限りはその事実に確信を持てないが、フェイクでない限り、映像は少なくとも一部のファクトは伝えている。もちろん、それは中国のマクロ経済全体がどうなるかを判断する材料の一部でしかないし、特にユーチューブでの極端な拡散は、アンチEV番組同様、かなり割り引いて判断したほうが良いのは言うまでもない。

タイのセター首相はタイと中国の国交樹立50周年にあたる来年に習氏の訪タイを招請したという。これ自体は当然の外交手続きだろう。そしてタイ政府も中国経済のリスクを多面的に分析しているだろうと思いたい。2023年のタイ国内の自動車販売シェアで、長年9割という驚異的なシェアを占めてきた日系メーカーが一気に8割を割り込む一方、中国系がEVを武器に約1割に達したというのは、タイの日系自動車産業を震撼とさせるデータだ。しかし、この中国勢の猛攻の背景をどう冷静に分析するかも重要だ。

1990年前後の日本のバブル経済のピーク前後を現場取材してきた記者とすれば、中国の不動産バブルの崩壊はようやく始まったかという印象だ。バブルの背景には必ず「神話」がある。日本のバブル期も「日本の土地と経済は永遠に上がり続ける」という神話があった。中国も同様の神話があると思われるが、両者の違いの大きいのは中国は共産主義ゆえに土地は国家が所有し、地方自治体は原価ゼロの土地を貸し出すことで、巨額の利益を挙げられるという「うま味」を知り「鬼城」を全土に生み出してしまった。そして、中国バブルのもう1つの現象が、中国EVメーカーのタイなど東南アジアへの怒涛の進出だ。それは昔の華僑同様に、混乱する本国から脱出し、海外で生き残り、定住していくことだとすれば、中国メーカーのタイ進出の長期的な展開は極めて興味深い。

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TJRI Editor-in-Chief

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

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