カテゴリー 経済/ビジネス
公開日 2022.06.14
デジタルトランスフォーメーション(DX)分野に強みを持つアビームコンサルティング(東京都千代田区)のタイ現地法人アビームコンサルティング(タイランド)は5月中旬、タイの電気自動車(EV)市場の見通しについて記者会見し、政府の普及促進策と消費者により多くの選択肢を提供する業者の新規参入がバッテリーEVの普及を加速する要因となる一方で、自動車メーカーの課題はまだ多いとの認識を示した。
タイ政府は2035年までに国内販売台数の100%、生産台数の50%をEVにするとの野心的な目標を掲げている。これは新型コロナウイルス流行前の年間平均販売台数100万台、年間平均生産台数200万台という実績を考慮すると相当な努力が必要な水準だ。アビームによるとタイの2019年のEVの普及台数は660台で、2021年に1955台に増加、2022年には3000台まで増えると予想されている。
タイ政府はまた今年2月に輸入関税と物品税の引き下げ、直接補助金の支給という普及促進パッケージを発表した。これはEVの普及率向上と近い将来の国内生産開始を狙いとしたもので、促進パッケージ活用で既に複数の自動車メーカーと覚書(MOU)に調印しており、EVで先行する中国や欧州各国などとの差が縮まり始める見込みだ。
アビームのデジタル競争力担当責任者のスプリーダ氏は「タイ政府による多くの対策で、サプライヤー、自動車メーカー、消費者のEV導入が容易になり、タイでのEV市場の成長見通しは極めて有望だ。現在はサプライチェーンの障害、原材料コストの高騰という逆風が吹いているが、これらは一時的なものだろう」と指摘。さらに、「政府の奨励策が奏功して、長期的な展望は明るく、EV業界への投資は増加するだろう。同時に充電インフラも改善し、充電ステーション数も増えつつある」と述べた。
アビームはまた、プレーヤーは新しいトレンドを捉え、産業転換を支援するために戦略と業務の調整が必要だとし、具体的には自動車メーカーとサプライヤーが協力して、業務を可視化、最適化し、ボトルネックの発生を防ぐために、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ブロックチェーンを活用した「インテリジェントなサプライチェーン」を構築すべきだと提案した。依然、内燃機関(ICE)車の生産に大きく依存している既存の自動車メーカーについては、リスクとコストを軽減したEVへの移行に向けて既存の資産を活用した柔軟な製造システムを採用することが可能だと指摘。特に現在、ICEのパワートレイン部品に依存しているサプライヤーは、迅速に行動し、他の製品やサービスに軸足を移し、新しいパートナーシップを構築するための適切な戦略を準備する必要があると強調した。
このほか、タイが東南アジアのEV生産のハブを目指すのであれば、近隣諸国、特にインドネシアやベトナムとのより激しい競争に積極的に備える必要があると警告。インドネシアは、バッテリー製造に不可欠なニッケルの主要生産国であり、ベトナムは自国でEVを開発したり、安価な労働力でEV工場を誘致したりする可能性を秘めているとの見通しを示した。
TJRI編集部
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