EV時代の到来とタイの自動車産業の未来図 〜 中国、インドネシアとの競争に勝てるか 〜 前編

EV時代の到来とタイの自動車産業の未来図 〜 中国、インドネシアとの競争に勝てるか 〜 前編

公開日 2022.06.10

従来、ハイブリット車(HV)優先を標ぼうしてきたトヨタ自動車は、昨年12月に2030年までに30車種のバッテリー電気自動車(BEV)を投入、その世界販売台数目標を従来の200万台から350万台に引き上げると発表し、世界の自動車業界を驚かせた。

タイでも今年3月の「バンコク国際モーターショー2020」でスポーツ用多目的車(SUV)型のBEV「bZ4X」を披露。4月末にはタイ国トヨタ自動車はタイ財務省間接税局と政府の電気自動車(EV)普及促進制度に参加するための覚書(MOU)に調印し、EVで先行する中国勢との競争激化が予想されている。

今回はタイのEV政策と激変が予想されるタイ市場を分析し、警鐘を鳴らす二つのリポートを紹介することで、「東洋(アジア)のデトロイト」とも呼ばれるタイの自動車産業の未来図を垣間見てみたい。

トヨタは方針大転換?!

© 2021 TOYOTA MOTOR CORPORATION. (撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY)

「(2030年に)BEV350万台、30車種でも(EVに)前向きでない会社というなら、どうすれば評価いただけるのか」

昨年12月14日に東京都内で行われたバッテリーEV戦略説明会後の記者会見でトヨタ自動車の豊田章男社長はこう述べ、環境団体などからの「トヨタはEVに消極的」との批判に真っ向から反論した。この説明会ではまず、bZ4XなどBEVの「bZ」シリーズ5車種を披露。さらに豊田社長のスピーチの途中で、後ろに張られていた白い幕が下り、さらに11車種の新型モデルが登場した。2030年までにはEVでもフルラインナップとなる30車種を市場に投入するという。

このトヨタの世界EV戦略発表について、タイの経済界トップ層も愛読するオンラインニュースメディア、スタンダード・ウェルスは4月15日付けの記事(*)で「トヨタは数カ月前までEVに本格着手するには時期尚早だと答えていた。それが、世界の自動車業界に先立ってEVの新車種をどこよりも多く発表した」とその驚きを伝えている。

ただこの説明会で豊田社長は「世界中のお客様に、できるだけ多くの選択肢を準備したい」「カーボンニュートラルのカギを握るのがエネルギーで、現時点では地域によってエネルギー事情は大きく異なる。だからこそトヨタは各国、各地域のいかなる状況、いかなるニーズにも対応し、カーボンニュートラルの多様な選択肢をご提供したい。どれを選ぶか。それを決めるのは、私たちではなく、各地域の市場であり、お客様だ」などと強調し、BEVへの完全シフトではなく様子見姿勢も示している。

本格化するタイのEV普及促進計画

タイ政府は今年2月に、乗用車、ピックアップトラック、バイクなどEV車の国内需要拡大に向け、輸入関税の引き下げや物品税率の引き下げなどを柱とするEV普及促進プログラム(2022~25年実施予定)を打ち出した。

具体的には、①EV乗用車1台に対し7万~15万バーツの補助金支給、②EVの輸入関税引き下げ(小売価格200万バーツまでは最大40%引き下げ、小売価格200万~700万バーツで電池容量30キロワット時超は20%引き下げ)③EVの物品税を現在の8%から2%に引き下げ―などの内容だ。

『電気自動車(BEV)奨励パッケージの概要』出所:現地誌などからNRI作成

すでに中国の長城汽車(GWM)、上海汽車グループのMGセールス(タイランド)はタイ政府によるこの普及促進プログラムの適用を受け、EV販売価格の引き下げを発表、その後、トヨタ自動車も同プログラム参加を決めた。

先のスタンダード・ウェルスは「トヨタ自動車が大きな方向転換を行ったのと同時期にタイ政府はEV購入促進のために予算を投じ、消費者に対する直接支援策に踏み切った。何という偶然の一致だろう」と表現している。ただ補助金支給を柱とするこの奨励プログラムはタイ国内でバッテリー含め現地生産することが条件だという。さらに官報でまだ告示されていないので、同支援策の適用を受けたい企業は財務省間接税局と覚書(MOU)を締結することで、補助金を背景とした値下げに踏み切ったと指摘。「結果、販売準備が整い、国内に生産ラインの設置計画のある中国企業が先行してこの支援策の恩恵にあずかることになった」と解説している。

後編では、「タイはEVの生産ハブになれないのか、タイの自動車産業の未来」について、KKPリサーチのリポートをもとに迫ります。

<参考>
*スタンダード・ウェルス(THE STANDARD WEALTH)4月15日号の記事の全文(タイ語)はこちら

TJRI編集部

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