エネルギーとEV総合イベント、日系の存在感薄く ~バッテリー寿命、電力需給など課題は山積み~

エネルギーとEV総合イベント、日系の存在感薄く ~バッテリー寿命、電力需給など課題は山積み~

公開日 2023.09.05

タイ・エネルギー省とタイ電気自動車協会(EVAT)、大手展示会運営会社インフォーマ・マーケッツは8月30~9月1日の日程で、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内で、エネルギー・環境、電気自動車(EV)技術を披露する総合イベント「ASEAN Sustainable Week(ASEW)&Electric Vehicle Asia(EVA)2023」をバンコクで開催した。同イベントは昨年9月にも行われ、過去にはそれぞれ別々に開催されていたエネルギーとEVのイベントを初めて統合した狙いに注目し、TJRIニュースレターでも昨年10月11日号で紹介した。インフォーマ・マーケッツによると、今回は世界1500社以上が参加し、ドイツ、日本、韓国、中国、シンガポール、スイス、オランダなど8カ国以上がパビリオンを開設。昨年を大きく上回る規模との印象だ。日本勢では東京都中小企業振興公社がパビリオンを設置していたものの、その他では日本の存在感は極めて薄く、国別ではやはり中国が圧倒的だった。

出展の大部分は中国系企業
出展企業の多くが中国系

タイ政府はEVハブ化にまい進

「タイ政府のカーボンニュートラルと温室効果ガス排出ゼロ目標の達成を支援するために、タイ投資委員会(BOI)はグリーンでスマートな産業への移行を後押しする新しい投資促進戦略を承認した。もちろんEVはその重要な要素だ」

BOIのナリット長官は8月30日午後に行われた「EVA(iEVtec)」のオープニングセレモニーで基調講演し、EV産業発展に向けた政府の支援策を説明した。同長官はまず、タイの自動車分野について「国内総生産(GDP)の6%を占め、約100万人を雇用する主要産業だ。タイは今や東南アジアの最大の自動車生産拠点であり、世界でも10位で、昨年の生産台数180万台のうち半分が輸出向けだ。今年の生産台数は200万台に達すると予想している。自動車部品の輸出でも東南アジア最大であり、自動車サプライチェーンはより強固になっている」と、タイの自動車産業の強みを改めてアピール。そして、「世界の電動化のトレンドに合わせて、タイを世界規模のEV生産のハブにするため、2030年までに自動車生産台数の30%(72万5000台相当)にする」との目標(30@30)を掲げており、バッテリーEV(BEV)生産で世界のトップ10入りし、ASEANトップの座の維持を目指す」と訴えた。

BOIのナリット長官による講演の様子
BOIのナリット長官による講演の様子

その上で同長官は、タイはEVエコシステム構築に向けて、供給面、需要面の両方を対象とする包括的な対策を打ち出したASEAN最初の国だと強調。供給面では、EVの生産コスト引き下げを目的にバッテリー、トラクション・モーターなどの9つの主要部品の輸入関税を免除する一方、需要面では、EV購入への補助金や自動車税の引き下げを導入しているなどと紹介。この結果、今年1~6月のBEV登録台数は4万3000台と2022年の年間のBEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の合計登録台数を既に上回っていると報告した。

同長官はさらに、これまでにBEVの促進プロジェクトとして17件が承認され、その合計生産能力は27万台となり、これは「30@30」の目標生産台数である72万5000台の3分の1以上になると説明。また、EVサプライチェーン構築ではバッテリーが最も重要だとし、EV用バッテリー生産では14社20プロジェクト、さらに全産業向け高密度バッテリーでは11プロジェクトが促進策の承認を受けたほか、充電装置は既に1万1741基(うち急速充電装置は5719基)が設置済みで、11プロジェクトが促進策の承認を受けたことを明らかにした。

EVATは中国、韓国とMOU締結

各企業のEV展示
各企業のEV展示

今回のiEVTecのオープニングセレモニーで、EVATは外国の機関と興味深い2つの覚書(MOU)を締結した。1つは、中国の成都工業職業技術学院(CVTCI)との教育面での連携を目指すMOUで、もう一つが韓国全羅南道の北西部にあるヨングァン(霊光)郡とのMOUだ。ヨングァン郡の郡長はあいさつで、「タイは中国とインドという経済大国の真ん中にあり、最近はバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済を促進している」とタイにエールを送る一方、「電気自動車(EV)や個人モバイル機器などを戦略産業とする韓国政府のスタンスに基づき、ヨングァン郡はe-モビリティー産業を育成している」と説明。「われわれはe-モビリティー産業が世界中で発展するようさまざまな海外の国との協力関係の構築を望んでいる」とアピールした。

一方、タイ投資委員会(BOI)は8月30日、韓国スマートe-モビリティー協会(KEMA)とヨングァン郡の郡長が同28日に、韓国のEV関連企業20社を連れてBOIを訪問、タイのEV産業への投資機会を探るとともに、タイ企業との協業の可能性について意見交換したと発表した。会合には、パナス・アセンブリ―や電動バス大手NEXポイントなどのタイ企業も参加したという。BOIは昨年5月に韓国で投資家説明会を行った成果としている。

BOIによると、ヨングァン郡はEV先進国の韓国の中でも、EV普及率が高く、EV普及のモデル都市として中央政府、地方政府の支援を受け、E-モビリティー技術開発の拠点になっている。ナリット長官は、「韓国のEV企業は、東南アジアの自動車産業のリーダーであり、ASEAN域内でEV市場の成長率が最も高いタイに大きな関心を持っている。彼らは特に小型EVや、輸送やロジスティクス分野で利用される商用EVの分野でタイのパートナー企業との共同投資を検討している」との認識を示した。韓国企業は2018年から2023年6月までに、BOIに対し144プロジェクト、総額580億バーツの投資申請を行っており、主な業種は電気・電子、自動車部品、鉄鋼・金属、デジタルなどだ。

EVの真価はこれから問われる

EVATのクリサダ会長は、30日のiEVtecの開会式での講演で「2022年には世界の自動車販売台数の14%が電気自動車(EV)となり、2021年の9%、2020年の5%から順調に増加している。そしてEV販売の約60%が中国市場だ」と改めて世界的なEVシフトを概観している。そしてタイでは今年に入ってからも中国メーカーの新規参入、攻勢の勢いは加速しており、さらに韓国・現代自動車の販売強化にも注目が集まりつつある中で、これまでタイの自動車市場をほぼ独占してきた日系自動車メーカーの危機感は着実に高まっている。

タイ日産自動車の關口勲社長も今回のインタビューで、特に比亜迪(BYD)が新型EVドルフィンを日産の主力モデルであるアルメーラと同じ価格帯で投入してきたことや、新型車の企画から発売までの期間が日産などでは4~5年かかるところをBYDはわずか1年半でできることに驚きを隠さなかった。BYDなどは、日系メーカーのように品質が完璧にOKという状態で発売するのではなく、市場で不具合が出たら直す、取り換えるということを中国本土でやってきたとし、日系と「フィロソフィーが全然違う」と指摘。こうした戦略が中国以外の市場で通じるかを見守りたいとの認識を示している。世界的な怒涛のEVシフトの中で、EVのバッテリーの寿命と中古EVのリセールバリューの問題、そしてEV向けの電力需要がこのまま急増していった場合に電力供給が総需要を満たすことできるのかといった課題も改めて注目されている。EVの真価が問われるのはこれからだろう。

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TJRI Editor-in-Chief

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

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