ベトナム現地取材リポート(2)新たな成長ステージへ

ベトナム現地取材リポート(2)新たな成長ステージへ

公開日 2023.02.07

前回コラムのベトナム現地取材リポートの第1回では、日本企業のベトナム進出事情を概観するとともに、ベトナム経済の基礎情報をごく簡単に紹介した。第2回ではベトナムへの外国直接投資(FDI)の動向や輸出入の実態をもう少し詳しく見るとともに、ベトナム投資における課題を整理したい。

外国直接投資がGDP押し上げ

「ベトナムは過去20年間、外国直接投資(FDI)が国内総生産(GDP)を下支えしてきた構造だ。基本的にはずっと連動している。ベトナム共産党は2019年に発表した決議50号の中で、中長期的に『質の高い成長を遂げる』指針を示している。これからはFDIに“質”が求められる時代だ。ベトナムにとって“質の高いFDI”とは何かを模索する必要がある」と問題提起するのは、三菱総合研究所の緒方亮介ハノイ駐在員事務所長だ。

出所:三菱総合研究所 海外事業本部 ハノイ駐在員事務所

同氏によると、FDI累積額に占める日本のシェアは2000年代の9%から16%まで拡大しており、「少なくとも存在感は増している」という。もっとも前回も触れたように、日本の製造業による投資には一巡感もある。

出所:三菱総合研究所 海外事業本部 ハノイ駐在員事務所

ベトナム外国投資庁(FIA)によると、2021年のFDI認可額は前年比7.8%増の243億ドルだった。FIAのデータから日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめたとろによると、1988~2022年11月までのFDI認可額累計のランキングは韓国の18.5%がトップで、シンガポールが16.2%で2位、日本は15.7%で3位だ。以下、台湾、香港、中国と続いている。ちなみに2022年1~11月のFDI認可額は210億5700万ドルで、国別ランキングはシンガポール、日本、韓国の順だった。

ちなみに、タイ投資委員会(BOI)が1月13日に発表したところによると、2022年のタイへのFDI投資総額は前年比 36%増の4339億7100万バーツ(約130億ドル)だった。国別では中国が774億バーツ(158件)でトップとなり、日本は件数では293件とトップだったものの、金額は508億バーツの2位で、投資総額に占めるシェアも11%にとどまっている。

サムスン電子が輸出の2割占める

近年のベトナムの貿易動向では、主に中国、韓国から輸入する一方、主に米国と中国に輸出する構造になっている。特に2002年以後、輸出先としては米国がシェアトップを続けている。

出所:日本貿易振興機構(JETRO)ハノイ事務所

また、品目別輸出では、2010年ごろから電気機械(HSコード85)、特に携帯電話、集積回路のシェアが急拡大を続けてきた。

出所:日本貿易振興機構(JETRO)ハノイ事務所

ベトナムの輸出を支えているのは外資系企業だ。特に2009年に進出した韓国サムスン電子グループがベトナムの全輸出額の約2割を占めているとされる。サムスンのベトナムでの売上高は8~9兆円とされ、ベトナムの国内総生産(GDP)の30~35兆円の3割近くを占める巨大企業となっている。サムスンのベトナム工場は既に同社として世界最大規模となっているが、昨年12月には、ベトナムへの追加投資方針を同国政府首脳に伝えるとともに、ハノイに東南アジア地域で最大規模となる研究開発(R&D)センターを開所した。投資額は2億2000万ドルで、同社はベトナムの位置付けを「世界の生産拠点」からさらに、「世界の戦略的な研究開発拠点」に格上げすることを目しているという。

改めてベトナムの産業構造の変化をみずほ銀行ハノイ支店作成の資料で見てみよう。

出所:みずほ銀行ハノイ支店

名目GDPの産業構成比では、2000年には農林水産業が25%を占めていたものの、2021年には14%まで縮小。一方で、2000年には37%だった製造業を含む工業は、2021年には41%に増加。さらに2000年は38%だったサービス産業は、2021年には45%まで拡大しており、特に「金融、不動産セクターの拡大が大きく寄与」(みずほ銀行ハノイ支店)しているという。

日本企業進出の背景に技能実習生

日本からの新規投資について業種別の認可件数は下図の通りで、従来は製造業中心だったものが、2021年では小売・卸、コンサル、ITというサービス産業が増えていることが分かる。これはタイと同様の傾向だろう。

出所:日本貿易振興機構(JETRO)ハノイ事務所

「当事務所に来る進出検討企業の声を聞いていると、取引先の顧客が進出している、または増産を想定しているため、近隣で納品したいということを理由に挙げる企業が多い。中小企業については、海外展開を検討する中で、日本で受け入れていたベトナム人技能実習生の帰国のタイミングで同地での拠点設立を決めるというケースも少なくない。日本ではベトナム人技能実習生が多くなっているため、海外進出先を決める際にベトナムが候補に挙がりやすい傾向にあるのではないか」と説明するのはジェトロ・バンコク事務所の小林恵介次長だ。

ちなみに外国人技能実習機構のデータによると、2021年度の国籍・地域別 計画認定件数で、トップはベトナムで53%と断トツで、以下、中国(13.3%)、インドネシア(12.6%)、フィリピン(7.5%)、ミャンマー(4.7%)、カンボジア(3.5%)で、タイは3.1%で7位にとどまっている。

三菱総研の緒方氏は、「ベトナムでは高齢化に伴い、高齢者を支える職業への需要が高まっているものの、介護という概念が根付いておらず、ベトナムに帰国した後に介護士として働いている人はほとんど見当たらない」と指摘。「技能実習先としての日本の魅力を高める為にも、日本で培った技能をベトナムでも活かせる就業機会を整備し、人材が環流する仕組みを作る必要がある。弊社としても、特に日越双方で人手不足が見込まれる介護士や整備士において成功例を示せるように取組んでいきたい」と意欲を示している。

ベトナムのメリットとリスク

ジェトロの2021年度「海外進出日系企業実態調査」によると、ベトナムの投資環境上のメリットとして挙げられたのは、①市場規模・成長性(69.3%)②安定した政治・社会情勢(61.4%)②人件費の安さ(56.9%)-がトップ3だ。一方で、リスクは、①人件費の高騰(60.2%)②行政手続きの煩雑さ(53.8%)③法制度の未整備・不透明な運用(50.2%)-の順だ。結局、人件費についてはこれまでタイなどと比べた安さが強みとなっていたが、ここにきての急上昇により、今後、このメリットが失われていくことを懸念しているようだ。

三菱総研の緒方氏も「ベトナムのリスクは圧倒的に人件費の高騰だ。ただ人件費が上がって他の国に製造拠点を移すかというとそうでもない。2021年に国際協力銀行(JBIC)ハノイ事務所と共同で実施した在越日系企業へのアンケート調査でも、ベトナム拠点が担っている機能をより高度化したいという意向を有する企業が多いことが分かった。上流の企画、開発・設計、あるいは下流のアフターサービスなど付加価値の高い分野だ。ベトナムは新たな成長ステージに入っているのではないか」との見方を示している。

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TJRI Editor-in-Chief

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

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