石油化学産業の脱炭素化と炭素循環 ~循環型ケミカルリサイクルとは~

石油化学産業の脱炭素化と炭素循環 ~循環型ケミカルリサイクルとは~

公開日 2024.01.29

今週紹介した東レのウドンタニでのバイオマス事業はさまざまな意味で注目され、個人的にも興味深い取材となった。1つには、タイはやはり農業資源が豊かであり、タイ政府のバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルの方向性の正しさが確認できたこと。そして、タイにとっても石油化学産業の脱炭素化にはどのような方法が有効なのかを考える手がかりが示された。そして、持続可能な航空燃料(SAF)への需要の急増が、改めて再生可能なバイオ燃料の重要性を再認識させている。昨年12月にタイミング良く日本の自然エネルギー財団が「石油化学の脱炭素化への道筋」と題するリポートを公表した。今回のコラムではタイにとっても参考になると思われる同リポートの要旨を紹介する。

石油化学のCO2排出量は鉄鋼に次ぐ2位

自然エネルギー財団の同リポートの副題は「大量消費見直し・炭素循環・自然エネルギー」というもので、執筆者は同財団の古澤康夫・上級研究員だ。古澤氏の専門は資源循環・廃棄物管理政策で、2023年まで東京都環境局の専門課長としてサーキュラーエコノミー政策を担当していたという。リポートは「第1章・石油化学の現状とCO2排出の状況」「第2章・石油化学の脱炭素化へ」「第3章・脱炭素化への道筋」の大きく3部構成となっている。今回は第2章を中心に紹介する。

リポートはまず第1章で、「産業部門は日本のエネルギー起源 CO2排出量の 37.8%を占めている。各種の製造業のうち最大の量を排出しているのが鉄鋼業であり、それに石油化学とセメントが続く。石油化学工業から排出されるエネルギー起源排出量は、化学産業の排出量の 50.2%に相当する。石油化学以外の化学産業では、ソー ダ工業やアンモニア製造、医薬品・半導体材料などのファインケミカルからの排出量が大きい」と石油化学産業のCO2排出の現状を概観する。このほかでも。石油化学製品自体が化石燃料由来の炭素を主原料にしているため、炭素は石油化学製品の中に残っており、使用済み製品が焼却処理されるとCO2として排出されることも考慮すべきだとする。そして、日本国内の石油化学製品の生産量の内訳は、プラスチックが63%、合成繊維原料が9%、合成ゴム6%で、これらが全体の78%を占めていると説明する。

このほか、第1章では基礎化学品であるエチレンについて日本の現状と主要国の生産量を紹介。さらに、世界のプラスチック消費量について、「新興国や発展途上国を中心に急増し、2050 年には現在の2倍の10億トン近くに達すると予測されている。これに比例してプラスチックの生産と廃プラスチックの処理に伴うCO2排出量が増加することがないよう、先進国において早急に石油化学の脱炭素化に向けた道筋を示す必要がある」と警鐘を鳴らしている。

OECD:世界のプラスチック消費量の予測
「世界のプラスチック消費量の予測」出所:自然エネルギー財団

炭素の循環利用とは

同リポートは第2章で石油化学産業の脱炭素化では、「エネルギー消費に係るCO2」と「石油化学製品中の炭素に係るCO2」の両面の脱炭素化を考える必要があると指摘。そして、脱炭素化社会実現に向けた重要なコンセプトである「サーキュラーエコノミー(循環経済)」への転換に向けて必要な取り組みとして3つを挙げる。その1つ目が「生産・消費量の削減」であり、「プラスチックの大量消費に依存しない経済モデル」を示すためにも、ごみを減らすための3Rのうち「リデュース」「リユース」の2Rにもっと力を入れていく必要があると改めて訴えている。

そして取り組みの2つ目が、このリポートの「肝」とも言える「原料の転換=炭素の循環利用」だ。その根拠は、「新たな化石燃料を投入できないとなると、使用済み化学製品に含まれる炭素を原料として活用することが極めて重要」になってくると指摘。そしてその具体的な方法として、「エネルギー投入をできるだけ低く抑える『小さな輪』で循環させる必要がある」とし、その最も小さな輪が「プラスチックや化学繊維、合成ゴムの高分子(ポリマー)を変化させることなく、そのまま活用するマテリアルリサイクルだ」と強調する。これまでのマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルは必ずしも高品質な再生樹脂が得られるものではなかったが、物性を回復させるなどの新技術の開発・導入、製品設計段階からリサイクルに配慮した設計を進めることで、「バージン樹脂に近い高品質な再生樹脂が得られるようになると期待される」としている。

プラスチックの循環炭素化学
「プラスチックの循環炭素化学」出所:自然エネルギー財団

そしてケミカルリサイクルは、従来は化石燃料の代替品として使用するもので、最終的にCO2として大気中に放出されるものだったが、「近年、技術開発が進められている『循環型ケミカルリサイクル』はプラスチックのポリマーを小さな分子(モノマーや基礎化学品)にいったん分解した上で、再度、高分子に重合させる方法だ」と説明。「汚れのある廃プラスチックでも、これまでの化石燃料を原料とするものとまったく同等のプラスチック(再生樹脂)にリサイクルすることができる」という。ただ、この方法だと、高分子を熱分解するためにエネルギー投入が必要で、かつすべての炭素を回収することが難しいとの課題もあるため、まずはマテリアルリサイクルを優先しつつ、ケミカルリサイクルを適切に組み合わせることで、高品質な再生樹脂を得ていくシステムを作る必要があると結論付けている。

ソーティングセンターとは

同リポートの第2章はこのほか炭素の循環利用に向け、「ソーティングセンターの導入」、「廃棄物系バイオマスの有効利用」、そして「ナフサ分解炉等の自然エネルギーへの転換」を挙げている。石油化学プロセスのうちエネルギー期限CO2排出量が最も多いのは、原料ナフサを850℃に加熱するナフサ分解炉であり、この熱を自然エネルギーで供給すべきだとし、ナフサ分解炉の脱炭素化技術の開発動向も紹介している。また、基礎化学品やプラスチックの輸出入が輸出超過となっており、国内の使用済みプラスチック製品から得られる炭素だけでは必要量を賄うことはできないため、炭素資源の不足分を廃棄物系・未利用バイオマスの使用を優先すべきだとしている。

一方、興味深いのは「ソーティングセンター」の導入の提案だ。「廃プラスチックの多くは多種類の樹脂や異物が混合」しているため、これらをそれぞれのリサイクル手法に合致するように選別するソーティング技術が重要になると指摘。日本でも廃プラスチックを樹脂別に分ける選別施設はあるが、対象が限られ、その純度も高くなく、選別されなかった他の樹脂は熱回収装置に送られCO2になってしまうという。これに対し、「欧州で主流となっている大型のソーティングセンターでは、多数の選別機を配置して、廃プラスチックを樹脂別・着色の有無別に純度の高い選別を行い、選別物は樹脂ごとの専門のリサイクル施設に送られる仕組みとなっている」とし、日本でも早期の導入を検討すべきだと提言している。これは多分、タイにとっても将来、留意すべき助言になるだろう。

プラスチックソーティングセンターの役割
「ソーティングセンターの役割」出所:自然エネルギー財団

大量消費社会のあり方を見直す

1月26日付バンコク・ポスト(9面)は、化石燃料の削減の取り組みにもかかわらず、2023年の世界全体の石炭火力発電量が過去最高に達する見込みで、石炭輸出が初めて10億トンに達したと報じている。環境シンクタンクのEmberのデータによると2023年1~10月の石炭火力発電量は前年同期比19%増の8295テラワット時(TWh)だった。一方、Kplerのデータによると、2023年の合計石炭輸出量は前年比6250万トン(6.6%)増の10億400万トンとなった。その原因、背景はどうあれ、まさに脱炭素化の流れに逆行する現実であり、まだ大半を化石燃料由来の電気に依存する電気自動車(EV)が脱炭素化に貢献しているとの主張は揺らいでいる。

自然エネルギー財団のリポート第3章「脱炭素化への道筋」では、日本が「今後の政策で重視すべきこと」として「石油化学の脱炭素化」「ソーティングセンター整備の促進」など8項目を挙げている。このうち5項目に挙げたのが「再生樹脂利用の促進(バージン樹脂利用の抑制)」だ。そこでは「高品質な再生樹脂の価格は化石燃料から製造されるバージン樹脂よりも高くなると見込まれている」ことから、欧州連合(EU)で導入されているようなバージン樹脂を対象とする課税などの経済的手法を検討すべきだと提言している。これは化石燃料由来のプラスチック、樹脂に関してはそのとおりだろう。一方で、しばしば「バージン」か、使用済みかという議論があるバイオ燃料などバイオマス資源ではまた違った視点も出てくる。これについては今週配信の「膜技術でバイオ産業に挑む東レ」の記事の最後で少し論じた。

一方、自然エネルギー財団は今回のリポートの「おわりに」で、「わたしたちがこれまでと同じ品質で同じ量のプラスチックや化学繊維を使い続けるとしたら、脱炭素化のためにはケミカルリサイクルやバイオマス、CCUSなどの技術開発を進めていくしかない」と強調。しかし、「技術だけで脱炭素化を実現しようとするのは無理がある。使い捨て容器包装に代表されるような大量消費社会のあり方そのものを考え直していく必要がある。石油化学製品の多少の品質低下や利便性の低下も、安全や衛生に配慮したうえで、許容されなければならない」と結論付けている。

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TJRI Editor-in-Chief

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

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