バイオ燃料の復権はあるか

バイオ燃料の復権はあるか

公開日 2022.11.15

今年6月のTJRI Newsletterの発刊以来、読者の関心を最も集めたテーマの一つが電気自動車(EV)だ。そして日本の自動車メーカーの強みである内燃機関(ICE)車の生き残りと、タイでは一定の市民権を得ているエタノール、バイオディーゼルというバイオ燃料の将来が改めて問われている。特に温室効果ガス削減には有効な再生可能エネルギーの普及が進む欧州連合(EU)がICE禁止に突っ走る中で、電力の大半を化石燃料に頼っている東南アジアは戸惑いながら、少しずつ現実路線を模索しつつある印象もある。そしてタイのようにエネルギー作物が豊富で安価な東南アジアではバイオ燃料のメリット、デメリットを精査する必要がありそうだ。

キャッサバ原料のエタノール利用拡大を

今年7月12日付のバンコク・ポスト紙(ビジネス3面)によると、タイのタピオカ・エタノール協会は、原油の国際価格の高騰による燃料価格の上昇に苦しむ自動車オーナーを支援するためにエネルギー政策当局者に対し、キャッサバ原料のエタノールの利用拡大の促進策を求めているという。ロシアとウクライナの戦争が終結する気配がない中では原油の国際価格の高止まりは続くだろうとの見通しも示している。

実はタピオカ・エタノール協会の会長は今号のFeatureで登場いただいたウボン・バイオ・エタノール(UBE)のスリーヨット・コウスラット社長だ。スリーヨット氏は同記事の中で、タイ政府が10年以上、エタノールを代替燃料として奨励しているにもかかわらず、エタノールの人気は期待ほどではなかったとコメントしている。同記事によると、現在、エタノールを20%混合したE20と85%混合したE85がガソリン燃料全体に占める比率はまだ22%にとどまる一方、エタノールを10%混合したE10の比率は75%で、残り3%がエタノールを混合していない無鉛ガソリンだという。スリーヨット氏は、原油価格の上昇が自動車オーナーに与えるインパクトを緩和したいならタイ政府はE20とE85の比率を上げるべきだと訴えた。ただそれでも日本と比較した場合、タイのバイオ燃料政策を十分に成功している印象だ。

なぜか日本でバイオ燃料復活議論

バイオ燃料は2005~2007年ごろ、米国などで一大ブームになったことで注目を集めた。日本でもバイオ燃料支援策は地球温暖化対策として環境省主導で始まり、その後、米国でのエタノールブームを背景に2007年からは農林水産省のバイオ燃料支援事業が始まった。しかし、同事業の補助対象となった北海道清水町と苫小牧市、新潟市での3カ所でのバイオエタノール事業は赤字続きで、農水省は2014年7月に同事業の打ち切りを決めた。その決定の背景には、自民党行政改革推進本部の「無駄撲滅プロジェクトチーム」(座長:河野太郎衆院議員)の「継続の可能性がないと判断されたものについては、予算の執行を停止する」という強い意志があった。結局、農水省のバイオ燃料支援事業は長期ビジョンを欠いたまま目先の採算性の困難さに直面し、葬り去られた。当時、これらの実証事業を取材する中で「日本はもっとエネルギー自給、飼料自給を重視し、バイオ燃料の研究を続けるべきだ」との現場関係者の悔しい思いを感じた。

その後、経済産業省が2017年12月に「我が国のバイオ燃料の導入に向けた技術検討委員会」を設置。2020年6月以後、いったん中断していたが、今年9月に再開。その背景には世界的に温室効果ガス削減が急務となったことや、ロシア・ウクライナ戦争に伴うエネルギー価格の高騰もあると思われる。自動車業界では欧州、中国主導で電気自動車(EV)普及が加速する中で、EV普及が遅れている日本で、自動車のカーボンニュートラル化の1つの選択肢として、「燃料の脱炭素化を図っていくことも必要であり、既存の燃料インフラや内燃機関等の設備を利用可能なバイオ燃料や合成燃料等の選択肢を追求していくことも重要である」(第6次エネルギー基本計画)とその必要性が再認識されたようだ。

タイ産バイオ燃料輸入の可能性は

こうした日本でのバイオ燃料の導入議論復活の背景には2022年5月の「日米首脳共同声明」で、「バイオエタノールの利用拡大に向けた取り組みが位置付けられた」(経済産業省資料より)こともある。これは米国産トウモロコシ原料のエタノールの日本向け輸出を拡大したいという米国側の思惑が強いだろう。以前、日本のバイオ燃料の取り組みを取材していた際には、中東などから石油を輸入するなら、米国産やブラジル産のバイオ燃料を輸入した方がまだましではと感じた。さらに植物資源が豊かで安価なタイに来て、タイなど東南アジアからバイオ燃料の日本向け輸出もありかと思うようになった。

バイオ燃料を日本国内のコメなど農産物を利用して生産する場合の採算性と商業化はかつての農水省事業で否定された。経産省資料でも、「今後、バイオ燃料製造技術の確立により、徐々に供給量の拡大が見込まれるが、原料制約の観点から製造量に限界がある」とし、将来的には、二酸化炭素と水素を合成して製造される「合成燃料(e-fuel)」の導入が期待されるとしている。

そして、バイオ燃料を議題にした場合、必ず出るのが「食料との競合」の議論だ。しかし、2008年ごろの世界的な食料危機を取材して分かったのは、途上国などで食料不足はあるがそれは投機マネーに吊り上げられて高騰した食料を貧しい輸入国が買えなくなることが大きい。農業生産大国では過剰基調のことが多く、問題は分配の問題だ。日本の減反政策だけでなく、米国もタイも主要穀物はおおむね過剰気味であり、新たな需要先としてバイオ燃料政策を強化してきた。

タイのICE輸出ハブ化とバイオ燃料の役割

日本では主食のコメ需要の減少トレンド、過剰生産基調が続く中で、コメを原料にしたバイオエタノールもありかと思ったが、政府・政治家のコメの高価格維持政策で採算性は厳しかった。しかし、ここにきて長期的な円安が続く場合には、輸入の燃料・エネルギーが割高となり、国内生産のエネルギー作物を利用した場合の割高感は薄れてくるのではないか。そして2000年代後半から2010年代前半まで地道に続けられていた国内でのバイオ燃料生産事業を研究・実証目的で継続しておくべきだったのではと改めて思う。その他の実現が遠く、商業化が難しい「夢の政策」にどれだけの国家予算を使っているのだろうか。農業現場の地道な取り組みを全否定したツケは大きい。

タイ政府はエタノール、バイオディーゼルというバイオ燃料政策に多額の予算を投じている。それは自動車燃料政策というより、米国同様、農家対策の意味が大きいかもしれない。しかしTJRIニュースレターの10月11日号で紹介したように、内燃機関(ICE)も一定分野で必ず残るとの認識も広がりつつある中で、タイをICE車の世界輸出ハブにするとの長期ビジョンも生まれつつある。そこでは、化石燃料よりは二酸化炭素排出の削減効果があるとされるバイオ燃料が果たせる役割も大きいのではないだろうか。

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TJRI Editor-in-Chief

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

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