中国バブル崩壊のタイへの影響は ~バンコクの不動産市況は堅調~

中国バブル崩壊のタイへの影響は ~バンコクの不動産市況は堅調~

公開日 2024.02.19

世界は着実に中国経済の混乱に身構え始めているようだ。不動産バブルの崩壊がいよいよ株式市場に飛び火し、政府当局が株価下支えに躍起になっている姿は、日本のバブル崩壊後の株価暴落対策をほうふつとさせるものがある。日本はバブル崩壊後、「失われた30年」と呼ばれる長期低迷にあえぎ、衰退に向かっていると見られていたが、ここにきて東京のマンション価格の高騰、日本株の急上昇ぶりが目立っている。しかし、これは中国の投資マネーが一時的に逃避しているだけかもしれず、予断を許さない。

一方、タイでは今年に入っても中国製電気自動車(EV)販売攻勢には衰えが見えず、既にEVブームに陰りが出始めている欧米とのコントラストが明らかになりつつある。さらに中国の春節(旧正月)休暇を迎え、中国人旅行者はかなり戻りつつあると伝えられており、やはり中国は人口、経済とも巨大な国であり、国民の富が全体としては大幅に減っていたとしても、海外旅行に出かけられる富裕層はまだまだ多いということを示唆しているのだろう。タイを含め東南アジアは、歴史的なバブル崩壊を経験した日本のケースと今の中国の状況の類似点、相違点を注意深く見極め、さまざまなオプションを想定しておく必要があるだろう。

中国不動産部門にIMFが警告

「不動産市場の低迷は3年目に入っている。・・・住宅着工件数はパンデミック前の水準と比較して60%超減っており、過去30年間で世界が経験した最大の住宅不況であり、歴史的な急縮小ペースだ。開発業者がプロジェクトを完了させるための十分な資金はなく、価格が下落することを住宅購入者は懸念している中で、住宅販売は減少している」

国際通貨基金(IMF)は2月2日に発表したリポートで、中国の不動産市場の現状をこう表現した。同リポートはまず、中国の不動産部門は過去数十年、経済活動の20%を占めるなど中国の経済成長をけん引し、特に新型コロナウイルス流行前の10年間、住宅価格は家計所得に比べて大幅に上昇したと指摘。しかし、中国政府当局は最近、リスク抑制を重視し、コロナ以後、開発業者の過剰な借り入れを制限したことから、その後、不動産活動は急速に縮小したとこれまでの情勢を概観する。

中国の不動産投資動向
「グラフ1 – 中国の不動産投資インデックス」出所:IMF

そして現在、多くの開発業者の経営は行き詰まったが、貸し手が不良債権の計上を遅らせる措置で破産を回避し、銀行のバランスシートへの波及を抑えていることなどから、住宅価格の下落は緩やかだと分析。しかし、人口減少などの構造要因から、中国の新たな住宅需要は今後数年間縮小、住宅投資もさらに減少し、「不動産投資は2022年の水準を30~60%下回る可能性が高い」と警告する。こうした中国不動産バブルの崩壊については民間機関の多くが既に分析しているが、IMFという権威ある国際機関が明確に指摘した意味は大きい。

中国株価はどこで底入れするか

「今年、中国株式市場の投資家は身の毛もよだつような相場を経験してきた。米国のS&P指数が過去最高値に上昇したにもかかわらず、中国と香港の株式市場は1月だけで1兆5000万ドルを失った。・・・2月7日には中国証券監督管理委員会の易会満主席が解任された」

英エコノミスト誌は2月10日号の表紙と巻頭記事などで、中国株式市場の混乱ぶりを伝えている。巻頭記事のタイトルは「習近平は市場をコントロールできなくなったのか?」で、不動産バブル崩壊がいよいよ株式市場に波及したことを伝えている。同記事によると、中国(上海、深圳)と香港の株式市場は2021年の直近ピークから35%下落し、時価総額は7兆ドル減少したと指摘。10年近く前までは、外国人投資家が中国に殺到し、経済成長率は年6%超が続き、2014年には外国人投資家が香港市場を通じて、中国株に投資できるようになり、その4年後にはMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)がその世界株指数に中国本土企業株を加え始めたと説明した。ちなみに、日本経済新聞は2月15日、MSCIは同指数から中国銘柄66銘柄(8%)を除外することを決めたと伝えている。

そして英エコノミスト誌の巻頭記事は、最近の中国株式市場の混乱について、「何を間違ったのか」と問い掛け、1つは「習氏の神経質な政策決定」だとし、例えば、証券監督当局が2020年に始めたハイテク株規制が投資家の信頼感に打撃を与えたほか、不動産危機に対して優柔不断だったことなどを挙げる。そして、中国政府は空売り規制を導入し、国営の資産運用会社に株式購入を命じたことで、一時的に株価は上昇するかもしれないが、株式市場への不信感、投資家の離反につながるだけだと批判している。

ちなみに香港ハンセン指数の史上最高値は2018年1月29日の33484、2月15日の終値は16335で、下落率は既に半値以下だ。そしてより中国政府の管理が強い上海総合指数の史上最高値は2007年10月16日に付けた6124で、今年2月8日の終値2829との比較では下落率は54%だ。一方、日経平均はバブル期の1989年12月29日の史上最高値3万8915円から、2008年10月28日の6994円まで実に82%も暴落している。相場の天井から底値までの下落率に関する格言「半値、8掛け、2割引」では、天井から68%安(高値から約3分の1の水準)が底値の目安となるが、日経平均はこの格言すら大幅に下回ったが、中国株は相場格言の底値水準までは下落していない。中国政府が市場を管理できず、市場原理が最終的に貫徹するなら中国株はまだ下落余地があることになる。

タイの不動産市場の状況

中国の不動産バブル崩壊、株価暴落はタイ経済に今後どのような影響を与えるのだろうか。中国人観光客の訪タイについては相互のビザ免除措置の導入、春節(旧正月)休暇でかなり復活したようだが、それでもコロナ前までの水準の回復は当面ないだろうとの見方が一般的だ。一方、長年、バンコクなどでの不動産投資のけん引役となっていた中国人投資家の動向はどうか。三井住友銀行(SMBC)と同グループのタイ調査会社SBCSが2月19日に開催した不動産金融セミナー「タイ不動産マーケットの今」の内容やSBCSが公表している不動産市場の資料などから、現状を概観しておこう。

同セミナーでは、2023年上半期のバンコクの地区別外国人コンドミニアム購入比率が紹介されたが、まずバンコク中心部の比率は34%で、欧米の投資家もいるようだが、多くが中国人だとされる。そして、オンヌット~バンナー地区ではオフィスビルやホテルなどが続々開発されていることもあり、外国人比率は13~22%近くまで上昇している。さらに中国大使館のあるラチャダー~ラップラオ地区では25%近くに達し、この地区はほぼ中国人のようだ。これらを見ると中国人の不動産投資は根強いようだが、実は中国人の不動産投資は7~8年前がピークだったとされ、例えばラチャダー~ラップラオ地区では4割が中国人中心の外国人の購入だったとされ、ピーク時の水準にはまだ戻っていないようだ。

外国人投資家における中国人のシェアは5割

さらに興味深いのはタイ政府住宅銀行傘下の不動産情報センター(REIC)による外国人向けコンドミニアム販売における国別シェア(金額ベース)で、2023年1~11月のランキングは中国(47.0%)、ロシア(6.4%)、米国(4.5%)、ミャンマー(4.4%)、台湾(3.8%)の順となっている。このうちミャンマーは2021年2月の軍事クーデターを受けて2022年から急増しており、富裕層がかなり逃げてきていると思われる。また、中国人投資家は2018年以後、コロナ期にはかなり減少したが、外国人におけるシェアは常に5割近くの水準を維持し続けたようだ。ちなみに日本人投資家は、2022、2023年とも金額ベースで11位にとどまっている。

タイにおける住宅価格インデックス
「グラフ2 – タイにおける住宅価格インデックス」出所:SBCS

こうした不動産への中国人投資家の本格回帰が遅れていることを受けて各デベロッパーは、持ち株比率が低下傾向にある(バンコク1990年61%~2015年46%)タイ人の実需でカバーしているようだ。また、タイの家計債務の国内総生産(GDP)比率は2021年第1四半期に91%弱と過去最高を記録した後、86%まで低下しているものの、高止まりしており、さらにノンバンク借り入れが増加基調(2010年12月8.0%から2023年9月12.5%)などの懸念材料もある。それでもタイの地価は、グラフ2でみるように上昇基調が続いている。この背景には特にバンコクなどで、税制面などの要因で不動産を手放さない地主が多く、土地の供給量が限られているという構造的問題もあるようだ。このため中国の不動産バブルの崩壊で、中国人投資家の減少が続いたとしてもタイの不動産セクターへの影響は限られると見られている。

THAIBIZ Chief News Editor

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社。証券部配、徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部、シカゴ特派員など務めるほか、編集長としてデジタル農業誌Agrioを創刊。2018年3月から2021年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。2022年5月にMediatorに加入。

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