2023年のキーワードはEV、中国、そしてASEAN ~来年も中国経済の動向に注目~

2023年のキーワードはEV、中国、そしてASEAN ~来年も中国経済の動向に注目~

公開日 2023.12.26

TJRIニュースレターも創刊から早くも1年半が経過し、この年内最終コラムも75回目となった。昨年の最終回のタイトルは「今年のキーワードはEV、脱炭素、BCG、そして大麻」だったが、2023年もほとんど変わらない。ただ、タイの電気自動車(EV)市場をめぐる情勢変化はより目まぐるしく、その大きな要因の1つが中国経済の変調であることが次第に明らかになってきた。今回のコラムは個人的に印象に残った2023年の主要記事とそのテーマを振り返る。

中国EVの進出ラッシュ続く

タイで電気自動車(EV)の販売攻勢が止まらない。タイ運輸省陸運局のデータによると、今年11月の乗用車(7人乗り以下)の新規登録台数におけるEV比率は約19%、1~11月の累計ではEV登録台数は約6万6600台で、全乗用車の約11%になった。11月の登録台数のブランド別ランキングでは、比亜迪(BYD)が約半分でトップ、上海汽車(MG)、合衆新能源汽車(NETA)、長城汽車(GWM)など中国勢が上位を占め、テスラ、BMWなど欧米勢も続くが、上汽通用五菱汽車(ウーリン)、広汽埃安新能源汽車(AION)など中国の新興勢力も登場している。こうした中国EVメーカーの怒涛の進撃は、11月下旬~12月上旬に開催された「タイ国際モーターエキスポ2023」でも顕著で、特に今年新規参入した長安汽車(Changan)やAIONなどの中国勢のブースには報道陣が殺到していた。これら中国メーカーは続々と海外初の工場の進出先としてタイを選び、来年以後の工場建設、生産開始計画を明らかにしている。これらの結果、日本の自動車メーカーのタイ国内販売シェアは既に従来の9割から8割程度まで急低下しており、来年の動向も懸念される。

中国メーカー異例の進出ラッシュ

中国製EVはこれまで輸入販売だったのに対し、タイ国内でも生産が始まる見込みとなる中で、2023年には日系自動車サプライチェーンやタイの地場の自動車部品メーカーがこうした中国勢のEVの現地生産をどう受け止めているかに大きな注目が集まった。TJRIのウェブサイトでも10月31日付のコラム「中国メーカーの異例の進出ラッシュの本音は が今でもアクセスランキングでトップとなっている。さらに9月12日付のコラム「中国バブル崩壊は、EV市場にも影響を与えるか」もランキング上位を維持。また、自動車部品メーカー絡みでは、11月7日付の自動車部品大手アーピコ、イエップ社長インタビュー」や、「ものづくり太郎氏」のユーチューブ動画を紹介した9月19日付コラム「タイの日系自動車産業に迫る脅威とは」も大きな反響があった。

また、個人的に貴重なベトナム取材機会となった「ベトナム現地取材リポート」の第4回(2月28日付)としてベトナム最大企業、ビンGの賭けの成否は」を執筆したが、その後もビンファストのEVでの米国進出は国際ニュースレベルでも注目された。さらにその反響が興味深かったEV関係の記事は5月30日付のコラム「先進国ノルウェーに見るEVの未来」だ。この記事は単に、米ニューヨーク・タイムズ紙のノルウェー現地リポートを転載したバンコク・ポスト紙の記事を紹介しただけだが、ネット経由のアクセスが続いたようで、TJRI記事ランキングでも現在なお5位を維持している。これは私自身が取材したものではないので内心忸怩たる思いもあるが、それだけ世界のEV最先進国ノルウェーの現状について、日本語での情報が極めて少なく、EVと自動車、そしてエネルギーの未来を真剣に考える日本人の関心を集め続けている証左だろう。

脱炭素、BCG、そして大麻

そもそも自動車のEVシフトは欧州主導の地球温暖化対策、二酸化炭素(CO2)削減、つまりカーボンニュートラル(脱炭素)を目指す世界の潮流が背景にあった。2023年は「地球沸騰の時代」の始まりの年とも印象付けられつつある。つまり、地球温暖化の段階からさらに悪化しているとの警告だ。タイでも脱炭素(CN)に日タイ連携して取り組んでいこうとする日本政府などのイニシアチブによるセミナー、展示会などのイベントは昨年よりさらに増えた印象だ。その中では、10月10日に配信した在タイ日本大使館とジェトロが開催した「CNセミナー」の記事と、コラム「サステナビリティーと脱炭素化の実践とは」の2本の記事執筆では、特に欧州連合(EU)が導入する「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」を初めて取り上げたこともあり、個人的に大いに勉強になった。

改めてトヨタ自動車の戦略を確認 ~欧米の政府当局、メーカーはどう受け止めるのか~

そして後者のコラム記事でも取り上げた、トヨタなどが商用車の脱炭素化に取り組む「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)」などの取り組みや、11月21日付コラム「改めてトヨタ自動車の戦略を確認 でも紹介した同社の「マルチパスウェイ」戦略に関連し、重要なのは内燃機関(ICE)車からカーボンを減らすことを含め、「累積性があるカーボンを継続的に減らすことだ」との同社幹部の発言にも注目したい。そして真の脱炭素化に向け、ICE車がすぐにはなくならないとした場合のソリューションとして、エタノールなどのバイオ燃料が見直されつつあることも、個人的には感慨深い。それは過去数年、プラユット前政権が主要国家経済戦略として打ち出したバイオ・循環型・グリーン(BCGと絡み、タイの真の強みである生物資源の豊かさ、そしてバイオ産業をいかに脱炭素につなげていくかも重要であることを示唆している。

その意味では、2022年6月9日にタイ政府が大麻(カンナビス)を麻薬リストから除外し、個人の栽培・使用を自由化したことで、バンコク市内の多くの通りに大麻草の葉のマークを掲げた「ディスペンサリー」があふれ、タイ社会に大きな波紋を広げる中で、天然資源としてさまざまな高い価値を持つ大麻がBCG経済の主役の1人になれるかを論じた6月13日付のリポート「大麻は人類の貴重な資源になれるか」も、人類が環境負荷を減らしながら天然資源をいかに活用していくかを考える1つの手掛かりになるのではと思っている。

また2023年は、日系含めスタートアップ企業のタイでの活躍が一段と目立った年でもあった。11月4日には、タイ財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと日本政府が支援するタイなどへの進出を目指す日本のスタートアップによるピッチイベント「ロック・タイランド」の第5回が開催された。TJRIでは2022年11月16日に行われた第4回に登壇した日本のスタートアップ企業のタイ責任者も参加する座談会を実施し、2回にわたり報告した。そしてこの座談会に登場したスタートアップ企業の人工知能(AI)カメラを活用した画像解析などのサービスを提供するニューラル・グループと、温室効果ガス(GHG)排出量の算定サービスを手掛けるゼロボードはその後、タイ大手企業との協業案件を着実に増やしている。また、日本のJAグループとタイのカシコン銀行が5月に開催した食農分野の日本のスタートアップ企業をタイに紹介するピッチイベント「AgriTech Bridge 2023」はタイが強みを持つこの分野でも日本企業が貢献できる可能性を示したという意味で興味深かった。

地方の挑戦、そしてランドブリッジ

2023年に主なキーワードに浮上したのは「スマートシティー」だ。この分野では知事就任2年目のチャチャート氏が率いるバンコク都と横浜市が脱炭素、そしてスマートシティーで連携を強め、さまざまなイベントを開催したが、TJRIでは紹介しきれなかった。一方で、12月中旬に配信した連載記事東北タイ・コンケンの挑戦」の取材は、個人的には初めての東北タイの取材であり、貴重な経験となった。タイは極端なバンコク一極集中で、バンコク都と地方の所得・経済格差は激しいと長年指摘されながらもほとんど解決の処方箋はない。あるのは一時的なバラマキ政策ぐらいで、中央の既得権益層が格差是正に本気で取り組む気はなく、地方はその構図に諦観している印象もある。そうした中で、中央政府に頼らず、民間活力でスマートシティーなどで地域経済発展に挑戦するコンケンを応援したいと思った。

ランドブリッジの功罪

そんな中で、2023年ににわかに日本でも多少知られるようになったのが、南部のタイ湾側のチュンポン市とアンダマン海側のラノン市を結ぶ陸上貨物輸送ルート「ランドブリッジ」計画だ。多分、1年前はタイ在住の日本人でもほとんど知らなかっただろう同計画は、もともとマレー半島の最も細く、長年「クラ地峡」に運河を掘れば、東南アジアの最重要海上輸送ルートとして混雑するマラッカ海峡を通過せず時間が短縮できるとして、古くは17世紀から運河構想が何度も浮上しては消えたという長い歴史がある構想だ。最近では非現実的な運河ではなく、貨物鉄道、高速道路、そして石油パイプラインを整備するというランドブリッジ計画に衣替えし、プラユット前政権に続き、セター現政権も前のめりになっている。しかし、巨額のコストをかけたプロジェクトがタイの強みの向上につながるのかなどを論考したのが、11月7日付のコラム「ランドブリッジの功罪 ~タイの真の魅力は何か~」だ。今ではランドブリッジという言葉はネット上で検索ワードに出てくるようになっている。

そして、タイの地方に日本が果たせる役割を示唆するのが、日本貿易振興機構(ジェトロ)が11月から開催しているタイの東北部、北部で開催している日本食普及を目指した商談会、イベントだ。これについては、12月19日付の「タイの地方に日本食はどこまで広がるか」というリポートと、コラム記事日本最強の『ソフトパワー』は食文化」で報告した。タイや世界における日本の存在感がどんどん低下する中で、日本の「食」には頑張ってほしいと思った。

中国、ASEAN、日本、そしてタイ

2023年はタイ政治にとっても大きな転機となった。5月の下院総選挙で反軍政の革新派政党「前進党」が第1党に躍り出たものの、結局、第2党であるタクシン派のタイ貢献党が連立の首班となり親軍政党まで取り込むことで、国会は8月に元不動産開発大手センシリの元社長、セター氏をタイの第30代首相に選出した。貢献党の最大の選挙公約だったデジタル通貨1万バーツの配布では手間取っているものの、ビジネスマンとしてのバランス感覚なのか、おおむねそつない政権運営ができているとの評価も聞かれる。そして、12月中旬には日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)との友好協力関係50周年に合わせた特別首脳会議出席のため首相就任後初めて日本を訪問した。同首相は日タイ投資フォーラムで講演し、ランドブリッジへの投資を呼び掛けたほか、日本の自動車大手各社の幹部と会合では、タイ国内での電気自動車(EV)投資を要請した。

この日本とASEANの友好協力関係50周年では、TJRIでも日本の企業・政府機関の在タイトップの連続インタビューも実行した。今回のコラムではスペースの関係で日本ASEAN関係について詳しく触れることができなかったので、ぜひ今後もこの視点からの記事執筆ができればと思っている。そして、来年もEV市場の動向や中国人の海外旅行だけでなく、東南アジア経済により大きなインパクトを与える可能性のある中国不動産バブルの崩壊と経済動向を注意深く見守っていきたい。

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TJRI Editor-in-Chief

増田 篤

一橋大学卒業後、時事通信社に入社し、証券部配属。徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部などを経て、2005年から4年間シカゴ特派員。その後、デジタル農業誌Agrioを創刊、4年間編集長を務める。2018年3月から21年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。TJRIプロジェクトに賛同し、時事通信社退職後、再び渡タイし2022年5月にmediatorに加入。

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